K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Quique Sinesi: Live in sense of quiet (2012) 秋だからか、そして、今の音楽を聴く理由

 2年ばかり、意識は古レコードで聴くジャズに持って行かれていた、ので、特にアルゼンチン音楽(なんか音響派、っていうんだっけ?)を追いかけること、は全くやっていない。

 秋だからか、久しぶりに、アルゼンチン音楽の新譜を手にする気になった。これも大洋レコードから送ってもらった一枚だけど、日本盤。NRT(知らなかった)から出ている。このような良質な音を出すレーベルがあるなんて、頭が下がる。

 古いLPレコードを鳴らしていれば、相応にジャズを楽しめる。だけど、本で言えば古典だけを読むのと同じ行為であって、同時代を共有し、その世界の中で感じ得る感性の多様性を愉しむ・慈しむような、ことはできない。だから、評価の定まらない今の小説を読んだり、音楽を聴いたりする、のだと思う。そんな気分に久しぶりになって、今、の音楽を聴いてみたい、と思っている。

 これは2012年のキケ・シネシとカルロス・アギューレの日本ツアーでの記録。前半がシネシのギターソロで、後半がシネシとアギューレの演奏。デュオと書かなかったのは、ジャズで云うインタープレイ的な交感があるイメージじゃなくて、全体としての音楽のイメージがあって、二人でコラージュしていくようなデュオ。だから恐ろしく完成度が高い。

  Live in sense of quiet のタイトルがとても良く、音の気分を出している。ECMのような絶対温度の低さを感じる演奏でなく、ギター・ソロは少しだけ温度が高く、アギューレとの演奏では春風が吹きこむような柔らかい暖かさ、に満ちている。日本ツアーも5月だったしね。

 実際に、彼らの演奏を聴いたのだけど、ボクは静謐な印象をそんなには受けなかった。むしろ、即興にように聴こえる音が折り重なって、稠密な音の世界の中で、とても気持よく構築された完成度の高い音に驚いた。音は存外に多いのだけど、うるさくない。だけどsense of quietではなかった。

 多分にこのアルバムへの選択のなかで、心象風景としての静謐さが喚起されるような曲を選んでいるように思われる。キケ・シネシにはECM的な静謐さ、は感じるのだけど、アギューレは昔のPMGに通じるような音の洪水のなかでの「心象としての静謐さ」。それがアルバムにも感じられる。

 全くライヴ感はないのだけど、今の季節にぴったりの温かい音楽だと思う。独り仕事場で流していると、そう思う。

 

 

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Quique Sinesi: Live in sense of quiet(2012, NRT)
   1. La Magia Esta' Dentro Tuyo
   2. Candombe Del Arco Iris
   3. Cancio'n Hacia Vos
   4. Alta Paz
   5. Otro Di'a
   6. Danza Sin Fin
   7. Donde Quiera Que Este's
   8. ?Sera's Verdad?
   9. A Beto
Quique Sinesi: 7 strings guitar, Piccolo guitar (4), Acoustic guitar (5)
Carlos Aguirre: Piano & Vocal (6, 7, 8 & 9), Accordion (7)