今年は渓流釣りで犀川源流の倉谷川へ何回か入った。釣りも勿論目的なのだけど、犀川ダム上流の源流域に何故か心惹かれるのだ。乗用車で乗り入れ可能な場所から、上流へ12kmあまり。自転車と徒歩での遡上はなかなか大変なのだけど、確かにかつては人が住んでいた場所である、理由が分かるような、魅力ある場所なのだ。倉谷村、と維新後の町村制成立までは呼ばれていた。
犀川ダムに沿った道を進むと、次第にダム湖の視界が狭まり、沢に入り込む。そして、赤い吊り橋が見える。そこが倉谷廃村の入り口。確かに、人は居ないのだけど、かつては人が住んでいた、あるいは人を引き寄せる魅力のようなものに満ちた土地、であることが、橋を渡ると会得できる。確かに街場の視点からは人間の居住限界であろうが、明らかに豊かな土地であることが、満ちた光りから窺い知れる。だからこそ、廃屋すら残らない今なお、小屋がけして滞在する村人の末裔が多いのではなかろうか。
川沿いに進むと、道は次第に河床に近づく。村はずれで徒渉箇所がある。そこには川の流量計測施設の跡、のようなものがある。その奥には、明治以前の集落、それも芝居小屋や遊郭まで備えた金山に付帯したものがあったらしい。川伝いに石垣や道標が散らばる。越中への山越えの裏街道もあったらしい。今は夏草の下で、ただ風だけが吹いていた。
金曜日は友人たちと遅くまで呑んでいて、土曜はすっかり寝坊だったのだけど、どうしても行きたくなった。季節が変わったためか、魚影はまったくなく、枝沢ですら小さなイワナがほんの少し姿を見せただけ。だけど、そんな誰も居ない場所で時間を過ごすことが本当に楽しいのだ。