K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

月の砂漠


 子供の頃、本田勝一の「アラビア遊牧民」を読んだ。知らない砂漠の国の民の話。砂漠の民の話よりも驚いたのは、ベドウィンの強い自己主張の在り方が世界では一般的で、日本人の感性は少数派であると書いてあったこと。閉空間の孤立した民族である点では、日本人は大陸の人たちよりニューギニア高地人のほうが近い、と。

 それから40年近く経ち、海外で随分と仕事をしたのだけど、本田勝一の指摘が正しいのか間違っているのか、未だに分からない。民族という集団よりも、人間の個性の振幅のほうが大きいように感じているから。

 あわせて、その本が云ったことで印象的であったのは、「月の砂漠」の光景が日本的な心象風景であること。男女ふたりで駱駝にゆられて砂漠を渡っていたら、略奪で殺されますよ、ってこと。勿論、千葉県大原(だったっけ)の砂浜をみて思いついた歌詞だからね、そうなんだろうけど。

 最近はのんびり部屋で、LPレコードをつぎつぎ取り替えて聴いたり、本を斜め読みしたり、そんな日々。夜半を過ぎると、南向きの部屋の正面を月が横切る。なんだか月と睨み合い、のような風情で面白い。そんなとき、ふっと幼時に覚えた月の砂漠の歌詞を想い出し、そしてそれが日本的な箱庭のなかの心象風景に過ぎないとの辛口の論評を想い出し、だけどそれだっていいじゃないかと独り言を云ってみたり、満ちた月を正面に独り過ごす晩の賑やかしいことが楽しい。そんな訳でつい夜更かしが過ぎる日々を何日か過ごしてしまった。月満ちる頃の楽しみなのだ。