K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Fred Hersch@Cotton Club 生の甘みを味わうような


 いつだったかSuzuckさんから教えてもらったライヴ。ボクはライヴにあまり出かけない。日々忙しく暮らしていると、なかなか気分がそちらへまわらない。日々の生活の雑事や仕事でアイテム的には満杯になっているのだ。いつも、自分の気持ちが残容量が僅かなUSBメモリ、のような疲れ方のなかで生きている。音盤の世界でかなり満足しているのも事実だしね。

 最近はLPレコード中心なので昔の音源ばかり聴いている。だから最近の録音を聴く頻度は随分と落ちている。Herschを聴くことも以前ほどではない。だけど聴くべきだと思って、金沢から出かけた。その理由は、多くの方に分かって頂けると思う。彼の宿痾、のこと。あの美音を聴くべきだと思った。

 そんな訳ではじめてCotton Clubに出かけた。最終セット(4月19日second set)。自由席なので席はこんな感じ。

曲順はtoshiya氏のブログを参考に。オリジナルとカヴァーのとても良いバランス。

 最初の2曲あたりまではピアノの響きがよくない。確かに綺麗な音なのだけど、どうも違う、って気持ちが強く感情移入できなかった。席が良くないのか、と考えると、もう駄目。場違い感満点の隣のグループが少しうるさい。やれやれ、って感じ。

 シューマンの曲からインスパイヤされたオリジナル曲(3曲目)、あたりからピアノの響きが変わったような気がする。粒立ってきた。そして一音一音への集中が強く感じられた。音の糸を紡ぎながら、より立体的な造形に組み上げる強い意志、のようなもの。ジョニ・ミッチェルのアルバム・ブルーからのカヴァー曲では原曲の味わいを生かしながら再構築するような音の繋がりが面白かったのだけど、なにか字余りのような、詰め切れないような部分があって、曲の美しさ(多分に白人の音世界だよね)に惹かれただけに、少し残念な感じが残った。後半のピアノの美音には、ただため息。クラシックを聴くような美音の世界。だけど、クラシックのような暴力的なseats of sounds(コルトレーンじゃないけど、意識をかき乱すような強い力)ではなくて、心地よい音の隙間がジャズ由来の音楽であることをしっかり主張していた。彼の音は透明でとても清澄なのだけど、音に暖かみがある。だから、生の甘みを味わうような、そんな音を紡ぐ人間の思いが伝わってくる。気持ちに灯を点すような力がある。ECMで多く聴かれる温度の低い音と比べると、ヒトとの距離が近い。

 アンコール2曲の素晴らしさは言葉にできない。深い満足のうちに、ライヴを終えることができた。

 suzuckさん、教えてくれてありがとう。

 嬉しいことにサイン会があった。LPレコードを持ってくれば良かった、と思った。CDを購入して、サインをしてもらいながら少し話をした。ライヴでも喋っていたが、次はトリオで来たい、と。そう彼は前を見ているし、生に希望を持っている。握手したときの力は強く、そして暖かみがあった。表情には生気がみなぎっていた。See you again with your trioって云ったときの笑み。

 きっと、まだ何回も聴くことができる、そんな確信めいたものを持って、ボクは金沢に帰る。

 あっ、それとサイン付きCDもね。