K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

João Gilberto: Joao Voz e Violao

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Joao Gilberto: João Voz e Violão(2000,Polygram)
1. Desde Que O Samba E Samba
2. Voce Vai Ver
3. Eclipse
4. Nao Vou Pra Casa
5. Desafinado
6. Eu Vim Da Bahia
7. Coracao Vagabundo
8. Da Cor Do Pecado
9. Segredo
10. Chega De Saudade
João Gilberto(vo,g)

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 自宅を離れ、遠い場所に出かける。そんなとき、遠い場所に在ることに気持ちが昂ぶることはない。普段のとおりの自分が在る。齢を重ねることは存外楽しいことだと思うのだけど、こればかりは、少し残念な気がする。ただ、晴れたり曇ったり、雨が降ったりする日常が楽しいのであって、それが何処なのかは関係ないようだ。

 ただ遠い場所に出かけるときに、持ち歩く本とか音を選ぶこと、それは面白く、つい時間を忘れて熱中してしまう。ただその愉しみだけのために、何時間も十何時間も移動している、と思えることすらある。

 そんな時に持ち歩く音は、気分によって違う。クラシック、モダンジャズ、あるいは現代音楽とかContemporary Jazzなど、重心が毎回異なる。だけど欠かせないのは南米音楽。何人かの奏者の音は指定席のように動かない。奏者と聴き手の距離、 音の距離が近い。耳元で囁くような音、やや冷たい人肌くらいの温度、雨上がりの湿度。独りでポツンと知らない場所に在るとき、少しばかり気持ちを暖めてくれる。

 そのなかでもジョアン・ジルベルトのアルバムは再生頻度が飛び抜けて高い。熱を帯びない、呟くような唄の麻薬的な惹きの強さ。あまり沢山のアルバムを持っていない。ほんの数枚の満足度がとても高いから。

 このアルバムは、つい最近届いたもの。10年くらい前の「最新の」スタジオ録音。タイトルのとおり、声とギターだけ。とても簡素な音の作り。だから音と音の間に広がる静寂な世界との対比でジョアンの声を愉しむことができる。少し暖かな空間に、一筆書きのような音の軌跡が走って行く。その余韻を愉しみつつ、次の音が流れていく様子を見つめる。そうこうしている内に気がつくとアルバムは終わっている。だけど、終わったことに気がつかぬ程、彼が残していった音の余韻は気持ちの底に溜まっている。車窓に走る深い緑をぼんやり眺めながら、そんな時間を送っている。

JOAO VOZ E VIOLAO

JOAO VOZ E VIOLAO