K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Joao Gilberto: Joao Voz e Violao

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年末に届いたLPレコード。これだけ心待ちにしたアルバムもない。CDも随分と聴いたのだけど、時間を超えたジルベルトがここに居る。それをレコードで聴くことができる、というだけで気持ちが揺さぶられる。届く前から愉しんでいた、のだ。

さて、届いてから随分たってから、ようやくレコードプレーヤーに盤を置く。そこで日本盤であることに気づく。そのクセがどう効くかな。

レコードというダイナミックレンジが狭い媒体に入れるためか、限界まで声のレベルを上げているためか、聴感上の音圧が実に高い。だからジルベルトとの距離感が実に近い。やや詰まり気味の音は柔らかさ、に包まれ、案外気にならない。

日本盤の柔らかさ、がギターの音のキレをやや殺している、ようにも感じられる。しかし、ジルベルトの存在感、声に焦点を当てているため、これも案外気にならない。

このアルバムを聴いていると、眼前でジルベルトが唄っているライヴ感が強い。その気持ちで聴くと実に素晴らしい。Live in JapanのBlue Rayどころではない。圧倒的。

その代わりに、CDでは強く感じた背後の空間、彼の唄やギターに静寂を抱きつかせるような奥行き、そこが損なわれている。だから音量を上げて聴くにはLPレコード、音量を落として、そうジャッケットの女性の仕草のような音楽を愉しむにはCDが良いのではなかろうか。High resolutionだったら最高だろうね。 

ジョアン 声とギター

ジョアン 声とギター

  • アーティスト:ジョアン・ジルベルト
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
  • 発売日: 2003/09/03
  • メディア: CD
 

 

 

[2013-05-30]音の距離

 

Joao Gilberto: João Voz e Violão(2000,Polygram)
1. Desde Que O Samba E Samba
2. Voce Vai Ver
3. Eclipse
4. Nao Vou Pra Casa
5. Desafinado
6. Eu Vim Da Bahia
7. Coracao Vagabundo
8. Da Cor Do Pecado
9. Segredo
10. Chega De Saudade
Joao Gilberto(vo,g)

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自宅を離れ、遠い場所に出かける。そんなとき、遠い場所に在ることに気持ちが昂ぶることはない。普段のとおりの自分が在る。齢を重ねることは存外楽しいことだと思うのだけど、こればかりは、少し残念な気がする。ただ、晴れたり曇ったり、雨が降ったりする日常が楽しいのであって、それが何処なのかは関係ないようだ。

ただ遠い場所に出かけるときに、持ち歩く本とか音を選ぶこと、それは面白く、つい時間を忘れて熱中してしまう。ただその愉しみだけのために、何時間も十何時間も移動している、と思えることすらある。

そんな時に持ち歩く音は、気分によって違う。クラシック、モダンジャズ、あるいは現代音楽とかContemporary Jazzなど、重心が毎回異なる。だけど欠かせないのは南米音楽。何人かの奏者の音は指定席のように動かない。奏者と聴き手の距離、 音の距離が近い。耳元で囁くような音、やや冷たい人肌くらいの温度、雨上がりの湿度。独りでポツンと知らない場所に在るとき、少しばかり気持ちを暖めてくれる。

そのなかでもジョアン・ジルベルトのアルバムは再生頻度が飛び抜けて高い。熱を帯びない、呟くような唄の麻薬的な惹きの強さ。あまり沢山のアルバムを持っていない。ほんの数枚の満足度がとても高いから。

このアルバムは、つい最近届いたもの。10年くらい前の「最新の」スタジオ録音。タイトルのとおり、声とギターだけ。とても簡素な音の作り。だから音と音の間に広がる静寂な世界との対比でジョアンの声を愉しむことができる。少し暖かな空間に、一筆書きのような音の軌跡が走って行く。その余韻を愉しみつつ、次の音が流れていく様子を見つめる。そうこうしている内に気がつくとアルバムは終わっている。だけど、終わったことに気がつかぬ程、彼が残していった音の余韻は気持ちの底に溜まっている。車窓に走る深い緑をぼんやり眺めながら、そんな時間を送っている。