K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

シュート・アロー:東京ジャズメモリー(2012、文芸社)「あの頃の空気」


 あれから30年経った。大学生の頃のジャズの賑わいといったら、今からは信じられないものだった。Live under the skyと称する一大ジャズイヴェントがあって、トップに立つジャズ奏者達が呼ばれていた。会場は数万人収容の屋外。今頃の東京でのジャズイヴェント、トップ「級」の奏者が集う屋内イヴェントと格が違う。ライヴ録音も発売されていたし、ジャズが商業的にも盛り上がっていた時代が懐かしい。1990年代に入って衰えたのかな。昨年、モントリオールジャズフェスティバルのメニューを見たとき、日本がもはや奏者達を集める力を失ったことを知って、何とも残念な気持になった。

 ディスクユニオン・ジャズ館で手にした「東京ジャズメモリー」を読みながら、まず思ったのはそのことだった。著者はボクと同世代。1980年頃に大学生だった。だから完全に時代感覚を共有していて、行間から沸き上がる空気が懐かしく、楽しい。会話厳禁で紫煙でむせるジャズ喫茶、Live under the skyの熱狂、マイルスの復帰コンサート(ボクは扇町プールで見た)、アートアンサンブルシカゴ(当日券がないことを会場で知って愕然とした悲しい思い出)の初来日公演などなど。「あの頃の空気」の缶詰のような本。

 だから、この感覚が共有されていないヒトが読んで面白い本かどうか、いささか怪しいのだけど、巷でジャズが熱かった時代が確かにあった、ということを知って欲しいな、とも思ったりするのである。いい時代にジャズを聴きはじめたよな、って思う。