最近、ジョニーズ・ディスクの再発が入着した。
今朝は思い出したように、このレコードを聴いてみた。何回目だろうか。トンボ眼鏡の女性の顔が、ターンテーブルの中央で回転する。
名前は随分前から知っていた。1980年頃に穴が空くほどSJ誌を読んでいたから。都内のライヴハウスで名前をよく見かけた。グッドマンだったか。
彼の初リーダ作である、このレコードも見かけた記憶はある。しかし、聴いたこともなかったし、手が出なかった。それから幾星霜、このピアノ奏者は鬼籍にはいった。ネットをみていると、随分、酒を呑んでいたようだ。
ボクの意識のなかに彼の名前が再点灯されたのは騒恵美子さんの本。
そのなかで阿部薫と板倉克行を褒めている。音が良い、と。殆どが時代的なコンテキストで語られる阿部薫について、それはなし、で奏者の良さを素直に語る感じが良かった。で、それがボクにも伝わった。とても響いた。
だから、阿部薫とともに、板倉克行のレコードやCDを探して入手した。 しかし板倉克行のアルバムでは、騒さんの褒めコトバが、微妙に伝わらないのだ。確かに硬質なピアノのタッチは嫌いじゃない。だけどクラシックに通じるような音の在り方に違和感が残る。装飾音が、そのように聴こえるのだ。全くもって好みの問題なのだけど。何というか、アヴァンギャルドっぽさが、ジャズとの関係性ではなく、クラシック(現代音楽でない)との関係性・遠心力を感じさせる、というか。ピアノの巧さがそのようなクラシックの残滓を抱えて未消化の印象がぬぐえない。
実は板倉克行のほか、アヴァンギャルド系のピアノ奏者で何人かそんな印象を持っている。不思議と日本人奏者(のごく一部)にしか、そんな印象はないのだけど。
とても個人的な印象だと思うし、季節や気分で変わるんだろうな、と思ったけど、今朝も変わらなかったなあ、その印象。レコードから東北のジャズ喫茶の空気感が伝わるような素晴らしいレコードなので、何だか悔しいのだ。
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板倉克行:海猫の島(1982 Johnny's Disk)
A1. 噂の山彦
A2. 種山ヶ原の羊
A3. 海猫の島
B1. 三陸縦貫鉄道の夜
B2. 日本ジャズ街のピアノ・ハンマー
B3. 朝日の如く爽やかに
板倉克行(p)
1982年6月3日 ジョニーでの録音