K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Gil Evans, Steve Lacy: Paris Blues(1987) レコードで聴いて感じたこと

 密やかに好きなアルバム。だからレコードが欲しかった。しかし1988年に発売されたアルバムは既にCDが主流であり、レコードでの入手が難しいものが多い。本盤も決して希なレコードではない筈なのだけど、この数年、入手できずにいた。海外サイトを確認すれば分かることだけど、案外安価だし、流通量も多い。

 つい先日、ようやく入手し、昨日届いた。予想通り、素晴らしい。この頃のCDの音場は詰まった感じで、レコードは最終末期に相応しい音場を有している。眼前に光景が広がるし、近い。やはりOWL盤の録音は好み。ECMほど冷たくないし、大概の米盤のようにキツくない。ペトルチアーニの盤もOWLで良かったなあ、と思う。(K君、つぎはECMだけじゃなくてOWLをかけよう)

 演奏についての印象は以前の投稿記事(この下)と全く変わらない。最近のマリア・シュナイダーデヴィッド・ボウイのヴィデオを見ると、ギルとスティングの共演盤の世界のなかに居るような気がする。年月を経ても色褪せぬ素晴らしい奏者は星の如くあれども、年月を経て輝きを増す奏者は多くない。技巧的にはともかく、ギルが冥界へ旅立つ寸前に録音された冬のパリの重苦しい空気と、ギルの音世界が高い純度で封止されたアルバムを手にできて、そして何回も何回も聴くことができて、嬉しい。音楽を聴く悦びの原点だと思う。

 勿論、スティーヴ・レイシーのソプラノ・サックスの響きも深く、ドルフィーのバス・クラリネットと双璧の美味しい音なのである。ただ吹いているだけで深みに降りていく彼の音の素晴らしさも堪能できる。先般アップしたヘレン・メリルとのOWL盤、この時期の富樫雅彦とのキング盤など、円熟という「軽いコトバ」で表せぬ妖気がある。 

 

Gil Evans & Steve Lacy: Paris Blues(1987, OWL)
A1. Reincarnation of a Lovebird
A2. Paris Blues
A3. Esteem
B1. Orange Was the Color of Her Dress, Then Blue Silk
B2. Goodbye Pork-Pie Hat
Gil Evans(p), Steve Lacy(ss)
Art Direction: Bernard Amiard
Engineer: Laurent Peyron
Master: Frederic Marin
Producer: François Lemaire, Jean-Jacques Pussiau
Recorded November 30, December 1st, 1987 at Family Sound Studio, Paris
Mixed at Ramses Studio Paris
Mastered at Translab Studio, Paris

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[2011-5-22の記事:Gil Evans & Steve Lacy: Paris Blues(1987) 上手けりゃ面白いか?]

Gil Evans & Steve Lacy: Paris Blues(1987, OWL)
    1. Reincarnation of a Lovebird
    2. Paris Blues
    3. Esteem
    4. Orange Was the Color of Her Dress, Then Blue Silk
    5. Goodbye Pork-Pie Hat
    6. Jelly Roll
    7. Esteem
Gil Evans(p), Steve Lacy(ss)

http://www.amazon.com/Paris-Blues-Gil-Evans/dp/B0000APVDRで試聴できます。

ボクがとても残念に思っていることは、1984年(だったかな?)のギル・エヴァンス・オーケストラの来日公演に行けなかったこと、といおうか、気がつかなかったころ。コカインでよいよいだったジャコ・パストリアスが乱入してメチャクチャだったらしいけど。

当時、ギル・エヴァンス・オーケストラは大好きで、随分アルバムを持っている(好きなのはPublic Theaterのライヴ)。最晩年がもっともよかった、と思っている。もっと長生きして欲しかったな。

ギル・エヴァンスが亡くなる少し前に出たアルバムがこれ。スティーヴ・レイシーとのデュオ。ギル・エヴァンスは主にFender Rhodesを弾いていて、ローズ好きのボクの気持ちにぴったり。白人二人のデュオなのだけど、どうしたことだろうか。タイトルのParis Bluesのとおり、さっぱりした所謂白人ジャズでもないし、黒さとも違う、不思議な音空間が出来上がっている。

巧けりゃ面白いか?

勿論、巧いほうが良いのだけど、決して巧いとは云い切れない二人の会話は訥々としているのだけど、ボクはいいなあと思う。なんとなく笠智衆みたいだよね。ジャズを聴いているなあ、という類の愉悦を沢山貰えるからね。