早朝、ルディ・ヴァン・ゲルダーの逝去、が伝えられた。91歳。シールマンスと同じ世代で、大往生である。数年前にBlue Note, Prestige, Verveなどの古いプレスを集めたのも、彼が録音し、カッティングしたレコードに「素晴らしい音場のものが含まれる」ということに魅了されたからだ。「当たり」のBlue Noteの音は、音圧の強さ、にイカれる。特にモノラル録音は。
少し留保したような書き方なのは「全てでない」から。特にBlue Noteの録音は、中音域に集中し音圧を露骨なほど上げているのだけど、効果的なものと、単に籠もったような印象を残すものに分かれている。むしろ、 Prestigeや Verveに「すかっとした」、「音圧が高い」プレスが多いような雑ぱくな印象があるので、ひょっとしたらBlue Noteはアルフレッド・ライオンの趣味、もあるかもしれない。ECMでアイヒャーが残響の制御に血道をあげている、って話があるように。彼ら、2人のプロデューサーはドイツ人の特性、のようなものがあるかもしれない。
近年のBlue NoteのCDで、RVGリマスタリングと銘打ったものを聴いたが、アレは酷いように感じた。元来、音域のCDの音域の高音をカットし、中音域にエネルギーを集中させたもので、音圧を高めるのでなく、あの「くぐもった」ような感触だけを再現したもの。CDの音圧の低さ、と合わさって疑問のものだった。
だからディスク・ユニオンでのLP再発のポリシー「RVGのイコライジング」を再現せず、音域を広げる、という考え方に大いに賛同したものだ。実際、音がいいしね。
そんな訳で、Blue NoteはRVGの刻印入りのレコード、国内各社の気合いの入った再発(東芝、キング、再び東芝)で、音が変わっていて、聴き比べるのも面白い。多分、どれがいいのか分からない部分も出てくるだろう。
RVG刻印のレコードのはじまりは、Blue NoteやPrstigeの1950年代のプレスのものだろうが、最後はいつだろうか。ボクが持っているものでは、1970年代のCTIのもの。Bill Evansのモントルーとか、そのあたり。その頃になると、全く録音として驚きを与えるものは無いように思う。日本のレコードでも、本当に素晴らしい録音が存在している。過去の人になっているのである。40年前の話なので、ヴァン・ゲルダー40代後半から50代である。Inovativeなissueで、よくある話である。そうやって人は幕をゆっくり閉じる。
さて、このレコードは1982年のヴァン・ゲルダー録音。彼が60代の頃。当時、ヴァン・ゲルダー録音と称して、エルヴィン・ジョーンズとかアート・ペッパーのものがトリオから出た記憶がある。あまり評判になった記憶がない。
このレコードは録音がヴァン・ゲルダー、ミキシングがヴァン・ゲルダーとエルヴィン・ジョーンズ夫妻。あまりパリっとしていなくて、音圧も高くない。しかもマルチ・トラックの録音(じゃないのかな)で、ソロごとに音量を上げていく様子が分かったり、なんとなく古くさい。冷めたスープのような、湯気が立っていないもの。
それはヴァン・ゲルダーに全てが帰趨するものでもなく、奏者が熱くない、のである。エルヴィン・ジョーンズのアレンジによるもの、らしいのだけど、「こんな感じね」って決めて、さあっと録音した感じ。勿論、水準はしっかり超えているのだけど、1+1<2となるような、やはり冷めたスープのような感触。何だろうか。借りてきた猫のようなファラオ、が雰囲気を沈滞させているような気がする。同時期、西海岸のテレサ。レーベルで奔放に吹いている彼とは、別人なのだ。
追記:
ここまで書いてapple musicの音源をPCで聴いているが、印象はレコード+大型のステレオほど悪くない。音圧が高く聞こえる。CDの段階でマスタリングを直したんじゃないかな。
apple music:
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Elvin Jone, McCoy Tyner : Love & Peace (1982, Trio)
A1. Little Rock's Blues (Pharoah Sanders) 4:37
A2. Hip Jones (Pharoah Sanders) 7:28
A3. Korina (Gene Perla) 5:34
B1. For Tomorrow (McCoy Tyner) 7:09
B2. Sweet and Lovely (Arnheim, LeMare, Tobias) 6:53
B3. Origin (Pharoah Sanders) 5:08
Pharoah Sanders(ts), McCoy Tyner(p), Jean-Paul Bourelly(g), Richard Davis (b), Elvin Jones(ds)
Engineer(Recording, Mixing): Rudy Van Gelder
Engineer (Cutting) : Shizuo Nomiyama
Producer: Keiko Jones
Executive Producer: Taizo Fujii
Released: Aug 1982
Recording/Mixing: Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey
Recorded 13 & 14 April 1982.