K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

トリオ深海ノ窓: 目ヲ閉ジテ見ル映画(2017) 今の時代でなければ聴くこともなかろうが

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吉田野乃子、田中啓文氏の本で知ったサックス奏者であるが、今の時代でなければ聴くこともなかったかもしれない。

というのは、JOE氏のサイトで新作の存在を知り、

youtubeでその音を知り、

そして奏者直販(野乃屋レコーズ: nonoko_yoshida@yahoo.co.jp)のCDを入手したという流れ。

現代の情報流通と、奏者の手売りということの対比が如何にも21世紀の音楽シーンだなあ、と思った。入手したCDの質(演奏、音質のみならずマテリアルとしてのパッケージ)の高さを思うと、それが商業誌による宣伝+音楽産業によるプロデュース+商流という20世紀的な音楽ビジネススキームの完全な外であることに、改めて軽い驚きを感じた。

本当はそんな話はどうでもよくて、語るべきは音楽のことだ。手にした日から繰り返し聴いている。前衛音楽系のサックス奏者ではあるが、美しく造り込まれた音楽の中で管の音を煌やかに響かせている。前衛音楽的な振幅はそのまま、で。弱音に至るまで、細かく設えたように感じられ、眼(耳やね)を離すことができない。バップ系奏者だというピアノも実に好み。現代音楽的な美しい響き、と、ジャズ的なドライヴが調和している。

新しい音を聴くと、まずは脳内に収めるために(多次元の)アドレスがつけられていくのだけど、吉田隆一/新垣隆のN/Yの隣にはいった。サックスのアヴァンギャルドな味とピアノの現代音楽的なひんやりとした温度感が音響的に溶け込み、曲として見事に造り込まれているものだ。これもまさにそう。いずれの作品も何より曲がいい。そして曲を唄うピアノの上で、サックスの音が空間のなかを墨のように流れていく。

さらに、このアルバムではフレットレスベースが良い味、柔らかさ・優しさ、を出していて、場面場面での光景がコマ落としのように変わっていく。タイトルは「目ヲ閉ジテ見ル映画」という、郷愁を誘う意図、なのだろうが、ボクのなかでは、まさに昭和30年代のお仕舞いに、デパートの遊び場で見た「コマ落としの幻灯機」のような印象。双眼鏡のようなレンズを覗くと、弱い白熱球の光りで浮かび上がるマンガのコマがゆっくりと落ちていく。このアルバムの曲が作る印象を、楽器の音響が次々と旋回させていく。飽きない。

アヴァンギャルドな音楽嗜好者(変態だよね)だけはなく、広く聴かれるべき音楽だと確信する(吉田隆一アルバムとともに)。JOE氏のコトバを引用する:

 

これは大変な傑作なのである。みんな聴くように!!

トリオ深海ノ窓 / 目ヲ閉ジテ 見ル映画 - あうとわ~ど・ばうんど

 嘘偽り誇張は全くない。そう思う。

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トリオ深海ノ窓: 目ヲ閉ジテ見ル映画(2017, 野乃屋レコーズ)
吉田野乃子(as, ss), 富樫範子(p), トタニハジメ(fretless-b)