もうイスタンブールから帰って数日経っているとは、とうてい思えない。あの熱気がすぐさっきのような気もするし、夜明けの夢のように彼方に消えかけているような気もする。窓を開けても、あのラマダンの終わりを告げる拡声器からの祈りが聴こえることはなく、静かな虫の音を聴きながら夜半過ぎを過ごしている。
あの数日が本当の身体的な感覚となる前にあの街を去ったことを惜しみつつも、また地勢的に正反対のこの東の果て「極東」と呼ばれるこの地の片田舎で過ごす幸せを感じたり、そんな気怠いような時間を過ごしている。何もする気が起きない独り暮らしなので、イスタンブールで手にした本「Rustem Pasha Mosque & Izumik Tiles」をパラパラと開いたり、眺めたりしていた。モスクに多用されているイスニック・タイルの意匠を類型的にまとめて解説する綺麗な本。モスレム圏では偶像崇拝を避ける為に人物や動物の絵画をあまり見かけないかわりに(ペルシャの細密画はともかく)、高度に抽象化された幾何学的文様や、植物のモチーフが美しく発達している。そのような意匠を描いたタイルは、特に青色の美しさは巧くコトバで表す事ができないような深みがある。
ビザンチン時代、古代ローマ帝国の正当な後継である中世ローマ帝国として地中海を支配した時代、の代表的な建築物であるアヤ・ソフィア寺院の周辺に小さな建物が点在していた。オスマン朝のスルタン達の廟所。アヤ・ソフィアと間違えて行き当たったその建物の内面は綺麗なタイルの装飾が施されていた。その様子をいくつかの写真で。
ドーム形の廟所
アラビア書道のタイル
違う廟所
眠るスルタンとその親族。棺の大きさは身分か?