少し前にショスタコーヴィチの「前奏曲とフーガ」の素晴らしい演奏で取り上げたメルニコフが気になった。少し眺めてみるとスクリャービンの盤を見つけたので注文した。
クラシック・ピアノの聴きはじめに、ホロヴィッツのスクリャービン集で打ちのめされてから、スクリャービン集には随分手を出した。ゲンリヒ・ネイガウス、アナトリー・ヴェデルニコフにも心の奥底まで降りてこられるような感覚、蠱惑的なんてものじゃなくて、まさに魔術的な世界。欧州世界の辺境、帝政ロシアの作曲家の曲をロシアのエスニック的な演奏家(ユダヤ系とか、ヴォルガ・ドイツ系とか満洲の白系ロシア人とか)が奏でる妙なり。意識の下層、無意識の世界まで降り立つ加速度の強さに目眩を感じる。
さてメルニコフを聴いてみた。ショスタコーヴィッチの「前奏曲とフーガ」と同じく、透き通るような明晰なオト。驚くほど、魔術的な匂いがない。とても爽やかな演奏。そもそもが官能的な、不健全とも云えるような響きに魅了されてクラシックのピアノ曲を聴いているので、これはなんとも不思議な体験となった。
勿論、嫌いなオトじゃないし、聴いていて「異なる心地よさ」がある。透き通るような純度の高い音で、朝の光に照らされたような音。意識を下降していくのではなく、意識の掌に載せて転がすような気持ちよさ、といおうか。だから全く異なる音に聴こえる不思議さ。あの知っている曲ではない驚き。
さて、そのメルニコフだけど2/26に東京でショスタコーヴィッチ「前奏曲とフーガ」の全曲を演奏する予定。この曲については、彼の美質が曲とよく整合しているように感じる。だから思わずチケットをとって、東京に出かける予定にしている。月曜朝は丸の内での仕事を入れた。皇居でも走ろうかな?
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Alexander Melnikov: Scriabine (2006, Harmonia Mund)
1. Prélude op.11 n°4. Lento
2. Sonate-Fantaisie (Sonate n°2), Op. 19: I. Andante
3. Sonate-Fantaisie (Sonate n°2), Op. 19: II. Presto
4. Deux Poèmes, Op. 32: I. Andante cantabile
5. Deux Poèmes, Op. 32: II. Allegro, con eleganza, con fiducia
6. Fantaisie, Op. 28 9:28
7. Feuille d'album No. 1, Op. 45: Andante piacevole
8. Deux Morceaux, Op. 57: I. Désir
9. Deux Morceaux, Op. 57: II. Caresse dansée
10. Sonate No. 3, Op. 23: I. Drammatico
11. Sonate No. 3, Op. 23: II. Allegretto
12. Sonate No. 3, Op. 23: III. Andante
13. Sonate No. 3, Op. 23: IV. Presto con fuoco
14. Cinq Préludes, Op. 74: I. Douloureux, déchirant
15. Cinq Préludes, Op. 74: II. Très lent, contemplatif
16. Cinq Préludes, Op. 74: III. Allegro drammatico
17. Cinq Préludes, Op. 74: IV. Lent, vague, indécis
18. Cinq Préludes, Op. 74: V. Fier, belliqueux
19. Ironies No. 2, Op. 56: Vivo, scherzoso
20. Sonate No. 9, Op. 68: "Messe noire" (Poème satanique)
21. Mazurka No. 3, Op. 24: Lento