起きているのか寝ているのか判然としない日々。呑み続けていると、その記憶が夢のなかのものか、うつつのなかのものか想い出せないときがある。懸命に記憶の糸を手繰り続けるような雨の朝。
つい数日前まで冬の中で身を屈めていたのだけど、握り固めた紙屑が自然に開いていくような感じで春の匂いが広がってきた。だから、そんな気怠いような感情の襞を楽しむような時間を過ごしている。
ポーランドのピアノ奏者ボシレフスキは最新作Faithfulから聴いているのだけど、世評ほどはピンときていなかった。季節性の感情というオトの入口が巧く開かなかったような聴こえ方。鍵が合わないような感覚、分かるかな。夏の頃だったしね。
そんな音盤は、うまくタイミングが合うと気持ちの奥まで入り込むことがある。だから、さっさと放り出して、季節の変わり目なんかに取り出したり、もう少し他のアルバムを手にしたりするのだ。
ボシレフスキの場合は、寒くなってから聴き直して、もう一枚聴いてみた。前作のJanuary。最新作のFaithfulからは凛としたオトの張りが伝わるのだけど、このアルバムからはもう少し沈殿したような暗さを感じる。だから冬の寒い部屋で独り聴いていると、その空気に溶けていくような感じが心地良かった。
それにしてもGary Peacokの30年以上前の曲Vignetteがきこえてくるとは思わなかった。若いボシレフスキが生まれた頃のアルバムTales of anotherから。あのアルバムではキース・ジャレットが記憶の底に降りていくような何かノスタルジイを引き出すような旋律を甘く弾いている。このアルバムでは感情を抑えた冬のような光景が広がるオトが作られている。鉱物質の美しさなのだけど、仄かに伝わる温もり、のようなものに驚いてしまう。
夢うつつのような曖昧な感覚で寝床から這い出た今朝、気怠さに添い寝してくれるような音に、どこか気分が遠くにとんでしまえばいいなあ、と意味のないことを考えながら聴いているのだ。
----------------------------------------------------------
Marcin Wasilewski:January(2008. ECM)
1.The First Touch
2.Vignette
3.Cinema Paradiso
4.Diamonds and Pearls
5.Balladyna
6.King Korn
7.The Cat
8.January
9.The Young and Cinema
10.New York 2007
Marcin Wasilewski(p), Slawomir Kurkiewicz (b), Michal Miskiewicz(ds)