K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Don Cherry: Multikulti (1989) すべてから解き放たれたオト


 このアルバムでは、Creditとかのデータは載せない。ドン・チェリーという途方もなく、束縛のない音世界に入ったヒトを語るのに、曲名とか、共演者の情報って、あんまり意味がないように思えたから。

 オーネット・コールマンドン・チェリーが1950年代末に火蓋を切ったアヴァン・ギャルド・ジャズなのだけど、破壊が目的化したときには、空漠とした荒野が広がっているような気がする。悶絶するコルトレーンとか、音楽という範疇を脱構築した所謂インプロヴァイズド・ミュージックの一派(ベニンクとかベイリーとか)の不毛な音。音が含有する過去からの蓄積を蕩尽してしまった後に何が残るのだろうか。結局のところ、ジャスが形式的に持っている束縛を脱して、音の愉悦を志向したときにアヴァン・ギャルドの真価がみえるような気がしている。その代表的な一人がドン・チェリーではなかろうか。

 長い時間をかけて紆余曲折し、様々な取り組みをしながら残ってきたアヴァンギャルド系奏者の音は面白いものが多い。オーネット、シェップ、サンダース、ベニンク、メンゲルベルク、ベイリー......そのなかでも亡きドン・チェリーの軽さは特筆ものだろう。民族音楽的アプローチを援用して、軽々とトランペットを吹いている。そして作為的な音はなし。聴いていて楽しい。

 そう、すべてから解き放たれたオトが楽しい。なにか気詰まりになったとき、そっと聴いてみる。そうすると、何事も些細なことに思えてしまうのだ。

同時期のライヴです