K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Wayne Shorter: Without a net (2011) 今を語る緻密で芳醇な音(昨日届いたCD)

 ジャズを聴きはじめた33年前から続けて心待ちにしていることがある。ウェイン・ショーターハービー・ハンコックの新譜。ほぼ欠かさず買い続けている。ほぼ、というのは若干の自信のなさだけど。マイルスはその頃お休みで、復活早々あの世だし、チックは飽きて、キースは好みのバラツキが大きく、などなど。

 二人ともそんなに新作は多くないので、とても楽にフォローできた、とも云える。とりわけウェインは寡作家とも云えて、Blue Noteの連作のあと、Weather Reportで活動をはじめてから、70年代:1枚!、80年代:3枚、90年代:3枚、2000年代:3枚だからね。正直に云うと、Weather Reportの末期は新味もなくマンネリ。だから解散して、ウェインのアルバム制作が活発になるかもしれない、と思って嬉しかったね。事実、1985年から1988年の頃は連続して出ていたから嬉しかったな。その後は、さっぱりだったけど。未だにNative Dancer(1974)で惹き付けられたキモチを充足させていない、のかもしれない。

 前置きはともかく、この新譜は本当に久々に、本当に満足して、聴くことができたアルバム。実のところ、21世紀に入ってからの諸作は親しみがたく、その音の純度の高さ、緻密さに驚愕しつつも、そんなに驚愕ばかりもできないよね、って感じで神棚に飾っていた感じ。本作は基本的なschemeは変わらない筈なのだけど、とてもキモチに合う。何だろうか。嬉しい感じで首をヒネりながら聴き続けた。多分、ピアノが付けていく色の色彩感と、ショーターの墨で草書のような音を綴っていく陰翳の対比、のようなものが楽しい。Orbits冒頭のピアノの響きが、音を聴くことに惹き込んだ。一方的に緻密さを見せつけるような重苦しさがない。

 今のジャズを聴くことへの熱狂のようなものが薄れている。昨今、新しい音に驚く愉しさが薄れているから。確かに、ECMや南米や欧州方面、周縁のオトに気持ちが寄っていくことは、ジャズの中心が空虚になっている(ように思える)ことと無縁じゃない。だから1970年代のLPレコードを廻す度にオトを聴く無垢の悦びが沸き上がる。作り手の無垢の悦びがすっ、と伝わってくる。

 そんなジャズの中心の中心から出てきた、今を語る緻密で芳醇な音、だと思う。久しぶりに、そんな音を最後まで聴き通した。Native Dancer以来の久しぶりの新譜、Atlantisを聴いたときを想い出した。ウエィンの音、としか言い得ない音、を聴くこと、に浸った。

 あわせてDanilo Perezのピアノをもう少し聴きたい、と思ったのはボクだけじゃないだろうな。調べてみよう。

 

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Wayne Shorter: Without a net (2011,Blue Note)
   1. Orbits
   2. Starry Night
   3. S. S. Golden Mean
   4. Plaza Real
   5. Myrrh
   6. Pegasus
   7. Flying Down to Rio
   8. Zero Gravity to the 10th Power
   9. (The Notes) Unidentified Flying Objects
Wayne Shorter(ts,ss), Danilo Perez(p), John Pattitucci(b), Brian Blade(ds)