K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金沢・本多町「よふ葉」何がが棲みついていそうな辻の奥で、あのヒトに出会った


 犀川の南から北へ住まいを移してからもうすぐ一年。何を寂しく感じるかというと、周囲の飲食店。泉野出町あたりの賑やかさと比べ、とても静かで、夜中に出歩く先があまりない。それでも探してみると、住処から片町の方向へ降りていく途中に幾つかのバーがあって気になっている。だけど、独りでずいずいと入り込む質じゃないので、本当に限られた店しか入っていない。というか、結局、1軒しか入っていない。それが本多町「よふ葉」。

 笠舞の交差点からやや片町寄り。何がが棲みついていそうな辻の奥で、仄かな燈火が見えたら、それが入口。性格的に新規店に入り難いのだけど、不思議と古い戸を引いて入るときに抵抗がなかったのは何故だろうか。築数十年の古い日本家屋。時間が溶けてしまったような、不思議な感覚を味わうことができる。数多のお酒とともに。そもそも本多町の辺りは区画整理と縁遠い地域で、確かに狐狸のようなものが息づくような不思議な場所なのだ。そこにある不思議なバー。

 行動経路が野々市方面の職場から、泉野そして犀川北の河岸段丘の上なので、本多町は行動経路外。だから殆どは、片町での飲食の帰途に立ち寄ることになる。

 昨夜は随分と遅い時間、21時前から仕事の宴会開始。だから23時過ぎに片町を出た。とても空が透き通っていて、星が無音を響かせながら煌めく感じが伝わる夜半前、だったので歩いて帰ることにした。だから自然と足が向いたのだ。狐狸に引っ張られやすい質、ではあるのだけど。

 久方ぶりに訪れて、あのヒトに出会った。浅川マキ。古いLPレコードSome year parstが薄暗い店内で手渡された。モノ・クロームのポートレイト。横顔の白さ、がこの世の感じじゃなくて、あの世の艶めかしさ、で魅入ってしまった。古い部屋のなかで、蓄音機(じゃないのだけど)から流れ出るように、ごく低い音で唄が流れ続けた。そして、どこかに時間を落っことしてしまった。

 そんな訳で、もはや呪いのヒトガタを打ち付けるヒトもいない猿丸神社の前をとぼとぼ歩きながら、透き通った星を見上げながら歩いて帰途が何となく気持ちよかった。黒く光った氷盤の上を滑っているような、不思議な夜だった。