K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

暗い時候・妖しい路地

 金沢に来て数年、街に流れる何か、が今まで住んだ土地と随分と違うことに驚き、歩き回っていた。ことに早々に暗闇がやってくる秋のお仕舞いかたから冬にかけて、そんな暗い時候に、妖しい路地のような場所に出会うこともあり、少しだけ変な体験をしたりもしている。

 そんな場所をふらつく時は大概呑んでいるので、その場所に棲む「何か」が悪戯してくるのだと思う。かなり陰翳の深い街なのだけど、あまりイケナイ感じはなくて、悪童のような陽性のものだと思う。

 本多町、遊学館のあたりはそんな場所で、いつだったか風の強い晩、片町の帰りにもう一杯と思い、町の外れにあるバーに向かっていた。大通りを歩き、遊学館あたりから近道を、と思い脇道に入った。遊学館の長い生け垣に沿って歩き、それからテキトウに路地を曲がっていったのだけど、知っている場所に出ない。歩いて行くと、次第に草むらのような場所になって、坂道。お寺の屋根が見える。石引のほうに向かっているように思える。近くの辻で下りるように曲がる。それから暗い民家の間を歩くと、再び上り坂。そんなことを繰り返すと、白山坂の下あたり。ほんの少しの近道どころか、5分で済むところを20分くらい歩いた。小立野台地に強く引っ張られる感触、が残った。そうして着いた暗い民家のバーには、先客がいて、金沢の不思議な感触について話をした。すると大通りのない昔の路地のこと、駅西のあたりの姥捨ての遺構とそこのビルの怪異譚のような話(酔っていたから不確かな記憶)がでてきて、ほんとうに不思議な夜になった。

 泉野出町の竹藪あたり、もそう。その近くで呑んで歩いて帰ろうとした。複雑に噛み合わせた区画が路をわかりにくいものにしている。その継ぎ目のような路を歩くと、すっと抜ける。竹藪からその路に上手く出ることができないと、方向が分からなくなる。その晩は余り呑んでいなかったので、歩くことにした。いつものように、路地を曲がった積もりなのだけど、知らない場所に出た。方向を間違いないように歩いているのだけど、おかしい。野田山が見えているような気がしてきたので、慌てて左手へ。耳元で鈴が鳴っているいることに気がついた。冷や水を被ったような気がして、少し小走りに。遠くに点滅信号が見えた。やっと、自室に戻る大通りに出られる、と思って、脚を早めた。出た。あの竹藪。もとの場所に戻っていた。やはり30分余り、何処を歩いていたのか。狐狸に騙されたような気分が残った。呑んでいたバーに戻って、呑み直してタクシーで帰ったのだけど。

 結局のところ、そんな狐狸のようなものと戯れることが面白いのだけど、呑む、ということと関係していることは確か。妖しい場所、に行かなければ、そんな面白いことはないのだから。昨日、天神橋あたりのバーの話を聞いたら、以前のそんな出来事をぼんやり思い出していた。

 そして昨夜出かけていった場所も、彦三の妖しい場所。なかの人がもっともっと妖しくて、儚い路地の狐狸なんか寄りつきそうもないのだけど、そんな灯りのもとから見える金沢の光景は少しだけ艶っぽく見えるように思えた。

 知り合いの知り合いが新装開店した店に出かけて、随分酔っ払った。