K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

本多町の奥でのこと


 先日、金沢の路地や坂での不思議なこと、について少し書いた。路迷いに誘い込むような何か、戯れてくるような何か、そんなものを感じることがある、という話。いわゆる霊感、のようなものが全くないボクであっても。

 昨日は東京から再びやってきたSさんと金沢の友人達で呑むことになっていた。Sさんを案内して、柿木畠へ向かう途中、近道となる本多町を抜けることにした。ついでに夜の鈴木大拙記念館も案内しようと思った。

 猿丸神社あたりの何ともイケない雰囲気を感じた後、隘路のような本多町へ。忘れ去られた、ような暗い町並みが好きだ。遊学館のあたりで旧くからの道が途切れ、なんとなく「ややこしい感じ」がする、ちょっと妖しい感じが夕暮れ後の散歩に向いている。さすがに、もう間違えることなく鈴木大拙記念館へ。気がつくと、開いた猫の眼のような月があかるい。照明のない記念館が、池のなかで浮いているのが見えた。好きな場所だ。

 ここは袋小路のような土地なのだけど、鈴木大拙記念館の裏手から県立図書館に抜ける遊歩道が近道。不思議なほど明るい月光に照らされて、落葉を踏みしめ緩い坂を登った。そこで、とても清澄な鈴の音がすっと流れた。Sさんも聞いた、という。ただイヤな感じはなくて、ただただ真っ暗な森の中で不思議な気持ちになった。そんなことがある、本多町の奥でのこと、なのだ。

 その夜は、そんなこともあったが、楽しく、美味しく呑むことができた。一軒めの素晴らしい和食の後、2軒、3軒と駒をすすめるなか、いつしかそんなことも忘れ、深く深く酔う感じが嬉しかった。それでいて、あの音の不思議な感触だけが残った。金沢らしい出来事だなあ、と思った。

(写真はSさん撮影のものを借用しました)