K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Jim Hall: Jazz Guitar (1957) 追悼(力が抜けたような)

 力が抜けたようなギターだと思う。音がとてもスムーズで、気張っている感じが全くない。そう、指を腕が保持し、腕を胴が保持しているような、肉体の躍動感、のようなものがない。とても上手な鼻歌のような音。

 2005年くらいであったか、マンッハタンの南にあるジャズ・クラブ、かの「ヴィレッジ・ヴァンガード」でジム・ホールのトリオを聴いた。70代後半の頃であろう。かなり足腰が弱っていた様子で、よぼよぼしていたのだけど、ギターは肉体から離れ、自身が鼻歌を奏でるように、とても自然なものだった。とてもリラックスできた記憶がある。その頃、既に半ば肉体を亡くしていたので、訃報を聞いたとき、とうとう彼の体が虚空に溶け込んでいったのだろうな、って思った。

 この人が凄い、と思うのは、このデビューアルバムから晩年まで一貫した「完成された音」を出していて、あまり変わっていないように思えること。だから、時代の流れから離れた位置にいるように感じられた。その「少し孤独な」音がとても好きで、アルバムを少し持っている。

 つい先日、Pacific Jazzの原盤を手に入れて、わくわくターン・テーブルに乗せたのだけど、これは「録音良し」で知られていた訳ではないので、何となく普通の音だったのだけど。特にドラムなしのトリオ、これがいいんだな。初期のオスカー・ピーターソンナット・キング・コールのトリオ編成(ピアノ、ギター、ベース)は同類の音の重なりが美しく、またベースやギターが奏でるスイング感が楽しい。そんな、大仰な歴史的なアルバムでもないのだけど、掌中の珠、のような素敵なアルバム。

 それにしてもビル・エヴァンスとほぼ同年配のホールが逝った。彼がもう少し「マトモ」な人生だったら、もう一回くらい二人のデュオを聴けたかもしれない、それも日本で、と思ったら、少しだけ寂しい想いがした。好きな、好きだった奏者は随分旅立った、ような気がする。さようなら。

 

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Jim Hall: Jazz Guitar (1957, Pacific Jazz)
    A1. Stompin' At The Savoy
    A2. Things Ain't What They Used To Be
    A3. This Is Always
    A4. Thanks For The Memory
    A5. Tangerine
    B1. Stella By Starlight
    B2. 9:20 Special
    B3. Deep In A Dream
    B4. Look For The Silver Lining
    B5. Seven Come Eleven
Jim Hall (g), Red Mitchell(b), Carl Perkins (p)