K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

五十嵐一生, 辛島文雄: Wish I knew (2016) 予定調和を超える何か

 つい先日、その存在を知って注文。届いてから、随分長い時間、何回も何回も聴いている。

 五十嵐一生の演奏は2年くらい前のもっきりやで聴いたが、ベース、ギターという編成で、それがまた彼のトランペットの良さ(響きの柔らかさ、美しさ、だと思う)が映える、素晴らしいものだった。そのときレコードで聴くチェットと少し似ていたのだけど、それが、ごく自然なことであったので、良い印象として残った、ことを記憶している。オリジナリティのためのオリジナリティ、のような歪みが全くなく、美しく吹いたときの帰結、のようなことで。その後、少し話をしたのだけど、昔と比べたときのアルバムの出す難しさ、が気になった。あの編成でアルバムを出して欲しいなあ、と思ったのだけど。

 そんな訳で、久々の五十嵐一生のアルバムであり、しかも辛島文雄とのデュオとなれば、手を出さない訳にはいかない。先日の辛島文雄のもっきりやでのライヴには、米国に行っていて、聴き損なった。そんなこともあって、通常、手を出さない国内の新譜を注文してしまった。

 とくにかく美しいアルバム。五十嵐一生の過去のアルバムや、先年のライヴからすると、十分、想定される美しいアルバム。悪く云えば、予定調和の範囲。だけど、予定調和を超える何かが確かにあって、惹きつけて止まない。時として、チェット・ベイカーポール・ブレイのデュオDianeを思い出したり(トランペットとピアノのデュオ、ならば必然的に)、On green dolphin streetではマイルスのミュートを思い出したり、する。だけど、そんなことは気にならなくて、そのようなことを予め織り込んだ上で美しく通り抜ける楽器の響き、相方との暖かく柔らかい会話、そのような美しい音への強い意志に十分浸ることができる。〜のように聴こえる部分も、あの世へ行ってしまった先達への暖かい感情を感じさせる。

 まあimprovised musicのようなものを聴いて、尖るような感覚と、ささくれるような気分が交叉するときに聴くと、本当に強く癒やされるのは事実。適度な残響をともなう録音も素晴らしい。あまり、つべこべ考えず、夜中にしっかりと浸るアルバム、なのである。

 また彼のトランペットを金沢で聴きたくなった。

参考記事:

music-music.cocolog-wbs.com

mysecretroom.cocolog-nifty.com

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五十嵐一生, 辛島文雄: Wish I knew (VAA, 2016)
1. I Thought about you
2. I wish I knew
3. Body and soul
4. My funny valentine
5. Stella by star light
6. Tony Williams
7. On green dolphin street
8. What's new
五十嵐一生(tp), 辛島文雄(p)