K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Craig Taborn: Highsmith(2017) ピアノの音空間を拡張するエレクトロニクスの鋭さ

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 クレイグ・ティボーンとイクエ・モリのデュオ。ブログの記事で発売を知った。

 普通、販売開始直後のCDは買わない。高価だから。しかし、これは我慢ができなかった。坂田明のLPレコードと一緒に注文した。

 クレイグ・ティボーンのアコウスティック・ピアノとイクエ・モリのエレクトロニクスのデュオ。ティボーンは様々なピアノの音響を引っ張り出すように弾き、それを軽やかに空間に浮遊させるようなエレクトロニクス。美しい。

 クレイグ・ティボーンが関係したアルバムを聴いていくと、エレクトロニクスが巧く音響空間の拡張に繋がっていることが分かる。人間の運動としての演奏が成し遂げられない、微係数が大きな音、厳密な反復や巡回などなど。そのような音の効果が、人が作る音の隙間を埋めたり、新たな時間軸を与えるような、そんな感覚を惹起する。しかし、それはあくまでアナクロなほど、身体性に拘った音が届かない、そんな隙間を埋めるものであって、主体には成り得ない感覚がある。

 だから、このアルバムの素晴らしさ、と思える部分はティバーンのピアノの音空間を拡張するエレクトロニクスの鋭さ、であるのだけど、二人がぶつかりあう意味での伝統的なデュオではない。過去、ジャズで数多の電子楽器が導入されたが、手足の運動により伝統楽器を模したキーやパッドから操作指示を行うことで、主体を獲得してきた、と思う。ここで聴こえるエレクトロニクスは、もう少し抽象的であり、身体性を破棄しているように感じる(実際、どのように演奏しているか分からないが)。

 同時に、身体性のない音が何らかの主体を獲得する途上であるような感覚もあり、このような音の試みが、どのような進化を果たすのか、大いに興味が沸いた。

Highsmith

Highsmith

 

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Craig Taborn: Highsmith(2017, Tzadik)
1. Still Point Of The Turning World
2. Music To Die
3. Two Disagreeable Pigeons
4. Nothing That Meets The Eye
5. Variations On A Game
6. Quiet Night
7. Bird in Hand
8. Dangerous Hobby
9. Things Had Gone Badly
10. Mermaids On The Golf Course
11. Trouble With The World
Craig Taborn(p), Ikue Mori(electronics)