K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Pierre-Laurent Aimard:Liszt Project (2012) 無音が放つ音


 硝子玉を落とした。音もなく吸い込まれたように消えていった。その消えいく様、その軌跡が音のようだと思った。無音が放つ音。そんな儚い記憶のような音を聴いた。

 数日前、出勤途上、クルマのラジオを鳴らしていたらリストの交響曲が流れた。題名は忘れた。弦が奏でる音がとても20世紀的な香りがした。不安のための不安、のような無機的な音。無機的、と書いたのは、そこに生き物の感情のようなものを介在させず、ただ不安が不安として漠に漂うような、そんな音。20世紀の音楽を美しいと思う時、そんな無垢の不安、のようなものを感じる。

 エマールのリスト・プロジェクトを半年くらい前に入手したが、聴かずに置いていた。エマールはとても好みに合うのだけど、リストの曲を聴いて良かった、ということが無かったような気がするから。アルヘリッチとか技巧に優れた奏者が弾いているオトを聴くと、リストの曲は難易度の高さのためだろうか技が剥き出しで見せられる感覚、があって何となく興冷めするようなことがある。だから、いい、とか、わるい、じゃなくて合わない感じがした。

 そんなラジオのきっかけがあって聴いてみた。晴れた冬の山の木立、のなかに流れる大気の細流のような音。純度が高く、熱は帯びていない。だけど、肌触りは暖かく、その感触は快感、と呼べるほど気持ち良い。リストの曲を気持よく聴いた。それと同時にスクリャービンバルトークラヴェルメシアンなどの、20世紀の音が並べられ、(多分)そのような音の発端がリストであることを、悟らせるような凝った構成。そのいずれも美しい曲で、エマールのなかで大きな音世界が形作られていることを感じる。

 或る日の夕暮れ、黄昏の中で聴いていると、夢のなかで手から零れ落ちた硝子玉の記憶が蘇った。硝子玉が下方に消えていったのではなく、ボクが硝子玉より上方にはじけ飛んだような奇妙な感触が残った。そして真っ暗になった。

 

Pierre-Laurent Aimard:Liszt Project(2012,DG)
CD1:
   1.Listz: La Lugubre Gondola, S.200 No.1
   2.Wagner: Piano Sonata in A flat major for the album of Frau Mathilde Wesendonck
   3.Listz: Nuages gris, S.199
   4.Berg: Piano Sonata, Op.1
   5.Listz: Unstern! -Sinistre , S208
   6.Scriabin: Piano Sonata No.9, Op.68 "Black Mass"
   7.Listz: Sonata B minor, Lento assai - Allegro energico - Grandioso
   8.Listz: Sonata B minor, candido espressivo
   9.Listz: Sonata in B minor, Andante sostenuto - Quasi Adagio
  10.Listz: Sonata in B minor,Allegro energico - Stretta quasi Presto - Presto - Prestisssimo - Andante sostenuto - Allegro moderato - Lento assai

CD2:
   1.Listz: Aux cypres de la Villa d'Este No.1 (Thrnodie)
   2.Bartok: Assai andante
   3.Listz: Saint francois d'assise la predication aux oiseaux
   4.Stroppa: Tangatu manu
   5.Listz: Les jeux d'eau a la Villa d'Este
   6.Ravel: Jeux d'eau
   7.Messiaen: Le Traquet stapazin
   8.Listz: Vallee d'Obermann