今、自宅では昔のLPレコード、そう半世紀くらい前にプレスされたレコード盤を聴いている。楽しんでいる、というより憑かれたように、の世界。いずれ聴き比べについて書いてみたいのだけど、中音域の分厚さには圧倒されていて、録音当時の空気が盤から沸き上がる感覚に驚いている。まさに古ランプならぬ古レコードをこすると魔神が出てきたような感じ。このことは幾つかの本でも書かれていることだし、webでも確かに情報があるので、よく知られた事実。
仕事場では、もっぱらCDを聴いている。さすがにLPレコードのプレーヤーだとか、再生装置を持ち込むほど狂ってない。
今日は土曜日でお休みなのだけど、来週の出張の準備で出勤。昔の資料を整理・編集して、新たに1時間くらいの話を行う準備をした。豪雨のなか家を出たのだけど、昼過ぎからはブラインドの向こうに青空が見えてきて何だか少しだけワクワクするような夕刻を迎えている。梅雨の合間の仕事場でそんな時間を過ごすことは、案外嫌いじゃない。冷涼な空気も気持ちが良いしね。
この数日は、キース・ジャレットの新作Somewhereを聴き続けている。
いつだったか、もう25年以上前だと思うが、長い間、キース・ジャレットを聴いていなかった。評判の高いStandardを幾つか聴いてみたのだけど、全くピンとこなくて放置。その後も少しは購入したが、やはり合わなかった。だから網羅的にも聴いていないのだが、名曲をこんな風に料理しました、風の才気走った感じが鼻についた。ボクはピーコック名義のTales of Anotherのような純度の高い音を期待していたから。
このアルバムを聴いて、大阪での演奏と重なり、とても嬉しかった。ソロとトリオの良いところを繋ぎ合わせたような、美しく楽しいアルバム。トリオの演奏に感じていた違和感はなく、今回はすっと入ってきた。多分、これが初めてトリオのアルバムで良かった、と思える1枚になった。
一曲目のDeep SpaceからSolarへの音の導きがまさに、ソロでの音世界からトリオの音世界への橋渡し。これは何回聴いても聴き飽きない。何回聴いたのだろうか。
今日も無限の音の循環のなか。どこがはじめで、どこが終わりか分からないような聴き方。どこから聴きはじめても初めて出会ったような音の聴こえ方。違った曲のように思える。たぶん音の構造が重層的で、かつそれぞれが自律的に聴かせるため、気分で「引っかかってくる音」が違ってくるような感じ。結局、3人のソロ、3組のデュオ、1組のトリオを聴いている。
気持の中では、4曲目のEverywhereの音のうねりのなかで、いつまでも過ごしたい、と思った。そんな風に思えるアルバムって、この時代には殆どないな、と改めて思った。だからこそ、偉大な死者達の息吹が封じ込められたような魔法のランプのような古レコード盤を漁っている。今をともに生きている奏者の演奏に、そのような感情を持てること、は本当に幸せなことだと思う。
あと何回聴くことやら。
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Keith Jarrett: Somewhere (2009, ECM)
1.Deep Space (Keith Jarrett) / Solar (Miles Davis)
2.Stars Fell On Alabama (Frank Perkins)
3.Between Devil And The Deep Blue Sea (Harold Arlen / Ted Koehler)
4.Somewhere (Leonard Bernstein / Stephen Sondheim) / Everywhere (Keith Jarrett)
5.Tonight (Leonard Bernstein / Stephen Sondheim)
6.I Thought About You(Jimmy van Heusen / Johnny Mercer)
Keith Jarrett (p), Gary Peacock (b), Jack DeJohnette (ds)