この街には老人が多い。子供より沢山居るように思える。街を歩いていて、はっ、とするときがある。街角で座って空を見ているような彼ら、の瞳に、何も映っていない、ただ大きな空虚な広がりだけがあるような。そんな印象を受け取ってしまうことがある。
ラリル・メイズの近況が気になった。どうしているのだろうか、と思って、ピアノ・トリオでのFictionary(1993)後のアルバムを手にした。2000年のソロ・ピアノ集しかない。(あとクラシックで1枚ある)
タイトルのように即興で、ピアノと電子音が組み合わされた音。思わず、あの老人の瞳、のような印象を受け取った。そう、ただただ大きな空虚な広がりだけが表現されている。まわりとの交感を断ち切ったような冷たい音。その冷たさが、関係性の拒否からくるもので、音自体の冷たさでないような感覚。自分がそのような孤絶した空間に包み込まれるような冷たさ。それが彼の音世界なのか。
ハーシュのように内向的であれど自己の存在に対する信頼からくる安らぎや、キースのように至高のものへ音を向かわせようとする意思、時としてそれが叶う、からくる美しさ、のようなものと全く異質。決して無機的ではないのだけど、何かを拒否したような彼の音にとまどった。
ただ純度の高い音が持つ存在感は確かにあるのだけど、その中に浸りたい、という気持ちににはなれなかった。
ますます、ラリル・メイズの近況が気になった。本当にどうしているのだろうか。
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Lyle Mays: Solo Improvisations for Expanded Piano(2000, WB)
1. This Moment
2. Let Me Count The Ways
3. We Are All Alone
4. The Imperative
5. Procession
6. Black Ice
7. Origami
8. Lightning Field
9. Locked In Amber
10. Long Life
Lyle Mays(p)