K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

阿部薫: 彗星パルティータ(1973) 何なんだろうか?

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 その短い人生、自死したパートナー・鈴木いずみとの生活(映画:エンドレス・ワルツ)で、生前、世間からの無関心のなかで生きたこと(ジャズ奏者は大概)が信じられないくらいアイコン化した奏者である阿部薫。 

 長い間、コジマ録音のカタログなんかにも載っていて気になっていたけど、手が出なかった。先日、解体的交歓(勿論CD)を入手したが、ちょいとキツかった。これの出物があったので、レコード盤を入手した。

 ターンテーブルに載せ、針を落とすと、その異様な緊張感が直ちに伝わった。強い存在感、不快感は全くなく、案外フリーキーではない咆吼をLPレコード2枚分、一気に聴かされてしまった。止められなかった。

 何なんだろうか? 何が惹き付けるのだろうか。彼の心象そのものを、音に載せただけじゃないのか、私小説みたいなものだ。多分、これはジャズのようでジャズでなく、呪詛のようでもあり、そうでなく、サーカス団やちんどん屋、演歌師のような、古い日本の残滓のような音を、ジャズで構築したような感覚がある。なにか懐かしい。と思ったら、第4面がまさにそのような音、そのような編集。可笑しくなった。 

 この音は日本のジャズを聴く理由そのものだ、きっと感情の基層にあるに違いない音の幻像へのオリエンタリズム、のようなものだ。もう聴こえなくなった遠い昔の日本の音が潜んでいるのでないか、そして、そのような音への羨望のような感情が惹起されることに快感を覚えている、に違いない。

 モノラルなのだけど、眼前で咆吼し続ける彼を堪能できる一枚。良かった。

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阿部薫: 彗星パルティータ(1973, Nadja)
Disc 1
A. α
B. β 
Disc 2
A. γ 
B. δ
阿部薫(as)

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