確か夜遅い電車で辿り着いた筈だ。誰に連れられていったのだろうか。鵠沼にある彼の自宅で座り込んでいる自分に気がついた。南欧風の大きな家で、大きな庇の下がコンクリートが打ちっ放しの土間になっていて、上から幾つかの籠がぶら下がっていて、1つには蜜柑が入っている。もう冬なのだ。だけど土地柄か暖かい。風が柔らかい。確か、彼には2人娘が居た筈だが、姿が見えない。もう家を出たのだろうか。
大きな広間には鞄が適当に並んでいて、奥の部屋には浴衣姿の男が何人も寝ている。結構な人数が昨夜やってきたらしい。大きな家だ。仕事があるので、荷物を持って出ようと思う。昨夜持っていた黒い鞄を探す。が、見当たらない。似たようなモノが多いので、困ってしまった。幾つか開けてみたが、ボクの鞄ではない。出かけられなくて困っていると、30年振りくらいの彼の夫人が出てきた。小さな青いショルダーバッグを渡してくれて、昨夜はこれで来たわよ、と云う。中身に見覚えがない。ボクの鞄には、幾つか大切なモノも入っていて、酔ったためか、どこかで無くしたようだ。
すっかり困ってしまって、これからどうしようか、と弱り果て続けていた。次の行動が続かない。所持金すら何もないのだ。
いつもそうなのだけど、睡眠に問題があるように思える。長時間、寝ていることができない。明け方に、そんな困惑した気分で目覚めることが多い。殆どが忘れてしまうのだけど、今朝はそんな嫌な感触をたっぷり抱えたままで目覚めてしまった。いつものように南の峰が明るくなるのを見ながら、朝を過ごしている。
まだ冠雪は見えない。