K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

米濱泰英: 日本軍「山西残留」―国共内戦に翻弄された山下少尉の戦後 (2008)

 

日本軍「山西残留」―国共内戦に翻弄された山下少尉の戦後

日本軍「山西残留」―国共内戦に翻弄された山下少尉の戦後

 

 映画「蟻の兵隊」で知られる日本軍の山西残留問題についての、決定版とも云える本。中公新書毛沢東の対日戦犯裁判」で興味が沸き、読み終えた。

 残留兵であった山下氏のインタビュー(オーラル・ヒストリー企画)をもとにした記述に、河本大作(山西産業社長、柳条湖事件の首謀者)の供述書(中国共産党解放軍の俘虜となった後の)などを合わせて構成されている。

 事実関係としては、特に目新しいものはないのだが、1949年の太原陥落までの生々しい証言に臨場感があり、解放軍が押し寄せる様が凄まじい。ただ様々なソースから話が組み立てられているので、個々の話の根拠はよくわからない(山下氏のインタビューも溶け込んでいて、どこまでか、わからない)。その代わり、読み易くなっている点はプラス。

 結局のところ、残留兵が俘虜となり、その帰国後に国会でもヒアリングされた「現地除隊」が本人の意思なのか軍命だったのか、が問題なのだけど、この本では軍首脳の関与があり軍命である、という論調(残留兵の意識として)に貫かれている。その点に関し、以下のサイトでの考察が興味深い。またこのサイトには、厚生省も完全に黙殺したのではなく、金銭的には一定の配慮を行った、との記述もあり、興味深い。

自願残留か軍命か―山西残留問題の争点 | 日華事変と山西省

 本書の中で、ポツダム宣言を履行し、将兵を日本に返すべく奮闘した南京の支那派遣軍総司令部 宮崎中佐と、のらりくらりとかわす山西の日本軍首脳とのやり取りが印象的。澄田(元日銀総裁の父)を頂点とする現地軍首脳の保身的な振る舞いが際立つ。とりわけ、太原陥落前に脱出し帰国した澄田中将の卑劣さが。

 それにしても国家としてポツダム宣言を受託し、武装解除中の支那派遣軍のなかで、軍命に背いた司令官のもとで、国共内戦に巻き込まれ戦死した500名以上の兵士にとっての大義は何だろう。空しい話である。合掌。