映画「蟻の兵隊」で知られる日本軍の山西残留問題についての、決定版とも云える本。中公新書「毛沢東の対日戦犯裁判」で興味が沸き、読み終えた。
残留兵であった山下氏のインタビュー(オーラル・ヒストリー企画)をもとにした記述に、河本大作(山西産業社長、柳条湖事件の首謀者)の供述書(中国共産党解放軍の俘虜となった後の)などを合わせて構成されている。
事実関係としては、特に目新しいものはないのだが、1949年の太原陥落までの生々しい証言に臨場感があり、解放軍が押し寄せる様が凄まじい。ただ様々なソースから話が組み立てられているので、個々の話の根拠はよくわからない(山下氏のインタビューも溶け込んでいて、どこまでか、わからない)。その代わり、読み易くなっている点はプラス。
結局のところ、残留兵が俘虜となり、その帰国後に国会でもヒアリングされた「現地除隊」が本人の意思なのか軍命だったのか、が問題なのだけど、この本では軍首脳の関与があり軍命である、という論調(残留兵の意識として)に貫かれている。その点に関し、以下のサイトでの考察が興味深い。またこのサイトには、厚生省も完全に黙殺したのではなく、金銭的には一定の配慮を行った、との記述もあり、興味深い。
本書の中で、ポツダム宣言を履行し、将兵を日本に返すべく奮闘した南京の支那派遣軍総司令部 宮崎中佐と、のらりくらりとかわす山西の日本軍首脳とのやり取りが印象的。澄田(元日銀総裁の父)を頂点とする現地軍首脳の保身的な振る舞いが際立つ。とりわけ、太原陥落前に脱出し帰国した澄田中将の卑劣さが。
それにしても国家としてポツダム宣言を受託し、武装解除中の支那派遣軍のなかで、軍命に背いた司令官のもとで、国共内戦に巻き込まれ戦死した500名以上の兵士にとっての大義は何だろう。空しい話である。合掌。