K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Marty Holoubek: Trio III (2022) 言葉で言い尽くせない何か、を自分の内面から喚起する、そんな力を持ったアルバム

TRIO III

Marty Holoubek: Trio III (2022, Apollo sounds/Jet set)
1. Opening (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
2. Part I (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
3. Part II (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
4. Part III (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
5. Part IV (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
6. Part V (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
7. Closing (feat. Eiko Ishibashi & Tatsuhisa Yamamoto)
Marty Holoubek(b), 石橋英子(p), 山本達久 (ds)
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久しぶりに、聴きながらドキドキする音に出会えた。一音一音の粒立ちが凄い。録音という側面からもそうだし、演奏という側面からも。言葉で言い尽くせない何か、を自分の内面から喚起する、そんな力を持ったアルバムに出会った。

マーティー・ホロベックははじめて聴く。オーストラリア出身。周縁である日本からみた周縁、というのがボクの世代の感覚だろうが、パプア・ニューギニアの奏者が出る時代なのだから、そんな空間の捉え方は時代遅れなんだろうな。

そのマーティー・ホロベックの音は見事に伝統的なジャズのベース・ソロの音で、低音をゆったりと巡っている。そこがまず気持ち良い。石橋英子と山本達久の音は双子のように、扱う楽器が異なれど、環境音のような、でもそうではない騙し絵のような音を流し続け、気がつくと空間を透明な何かで覆い尽くしている。惹き込まれた瞬間に、また強い引き波のように空間の特異点から消失していく。ジャズの語法ではない、融解した環境音のような塊と、ジャズ・ベースの調和と競合が怖ろしく聴く快感を呼び覚ます。

石橋英子や山本達久の音もかなり好きなのだけど、少し物足りない感じ、がある。何だろう、と思っていたのだけど、このアルバムが答え。完全なピースが揃ったような快感。新年のNHKのライヴで、松丸・石橋が凄く良かった、それと同じ理由。非ジャス・ジャズの境界が解ける瞬間の快感、というか。

多分、ECMの縁戚の音、なのだろうが、その先、随分遠くへ進化している。アイヒャーが残響というelectronicsで表現した空間を、すべて緻密に構成し、細密画のように表現され尽くしている。解像度が全く違うのだ、演奏も録音も。

音を聴くことが好きなのだけど、その時々で好きな音が揺らいでいて、うまく当て込むことに難渋することに疲れているように思える。だから最近は聴くことに苦痛を感じることがある。だけど、こんな音にヤラれるものだから、また探すのだよな、気持ちの良い音。