K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM2165) Keith Jarrett and Charlie Haden: Jasmine

(ECM2165) Keith Jarrett, Charlie Haden: Jasmine
1. For All We Know (J. Fred Coots, Samuel M. Lewis) 9:45
2. Where Can I Go Without You (Peggy Lee, Victor Young) 9:20
3. No Noon At All (David A. Mann, Redd Evans) 4:40
4. One Day I'll Fly Away (Joe Sample, Will Jennings) 4:15
5. Intro(Keith Jarrett) / I'm Gonna Laugh You Right Out Of My Life (Cy Coleman, Joseph McCarthy) 12:12
6. Body And Soul (Edward Heyman, Frank Eyton, Johnny Green, Robert Sour) 11:09
7. Goodbye (Gordon Jenkins) 8:01
8. Don't Ever Leave Me (Jerome Kern, Oscar Hammerstein II) 3:11
Keith Jarrett(p), Charlie Haden(b)
Cover: Mayo Bucher
Design: Sascha Kleis
Executive-Producer: Manfred Eicher
Master: Christoph Stickel, Manfred Eicher
Photograph: Rose Anne Jarrett
Producer [Recording Producer]: Keith Jarrett
Released: 07 May 2010
Recorded March 2007 at Cavelight Studio

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一言でいうと「裏切られた」一枚.それでも「こんな裏切り」は悪くない,と思う.

届いたCDから,全くケレン味のない自然な音が流れて出してきたとき,思わず裏切られたと思った.と共に何とも云い様の無い引きもあって,反芻し反芻し聴き続けている.今までの彼らの演奏を聴く時よりも,ずっとずっと距離感が近づいている.そして,今もまた聴き続けている,聴き続けている.何でだろうか.なぜ? だから美しく裏切られた一枚.

ECMレーベルの惹句のなかで,Keith Jarrettの言葉が紹介されている:
These are great love songs played by players who are trying, mostly, to keep the message intact.
love songを無垢のまま伝える,という演奏意図が,ボクが抱いていた彼らに対するassumptionから大きくハズレていたことがよくわかる.演奏のvectorが天蓋を突くのではなく,身近な人への暖かい気持ちを指向しているならば,確かに自然に淡々と音が流れ出るのだろう.名曲Body and soulにしてもテーマの始まりから美しさとオリジナリティが自然に溶け込んでいる.One Day I'll Fly Awayの美しさも聴き飽きない.

だけど裏切られた気持ちが底に残るのだ.

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Keith JarrettとCharlie Hadenの共演の話はポロポロ情報は流れていた.心待ちにしていた人は多かろうと思う.ボクもその一人だ.初めてジャズを聴きはじめた30年前から,そう思っていたのだから,話は長くなるし簡単ではない.手短に整理できないし,するべきでないように思う.じゃないと,裏切られたという意味が自分でもわからない.

1979年頃,ボクがジャズを聴き始めた頃の忘れられない光景がある.京都三条のアーケイドのなかにある十字屋の店頭,いや,通り沿いの窓,に黒地に欧州 の街頭の写真をはめ込んだレコードジャケットが並べてディスプレイされていた.Keith JarrettのECMからの新譜”Eye of the heart”が西独ミュンヘンのECMから届いたのだ.その光景は甘酸っぱい輸入盤特有の匂いとともに強く記憶に残っている.

Keith Jarrett: The survivor's suite(1976, ECM)  
Keith Jarrett (p,ss,perc), Dewey Redman(ts,perc), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds,perc)

 

 Keith Jarrett: Eye of the heart (1976, ECM)
1976年5月オーストリアでのライブ
Keith Jarrett (p,ss,perc), Dewey Redman(ts,perc), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds,perc)

 

新米ファンにとって待望の一枚であった理由は,大好きなECMから,Keith Jarrettの米国でのQuartet,俗にAmerican Quartet (Keith Jarrett (p), Dewey Redman(ts), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds)ほか )のライブが発売されるから.このバンドはImplseレベールから発表されていたが,Keith Jarrettの奔放な部分がまとまりなく垂れ流されている感があって,全体のアルバムの質は低かったと思う(Death and flowerは名盤と称されるだけの内容はある).しなしながら,ボクはCharlie Hadenとの絡み,Charlie Haden固有の昇り立つような独特のドライヴ感のうえでのKeith Jarrettが好きだったのだ.Impulseレーベルでは,好きな音の瞬間・瞬間が騒音の海に浮かんでいるような感じ,だった.Paul Motianは是も非もなく,Dewy Redmanの絵の具のチューブをしごくようなtsは耐えられなかった.だからボクにはAmerican Quartetのダメなレコード群はやりきれない思いがあった.美しい音のカケラが詰まっていたのに.

ところが,Impulseのあと,ECMからリリースされたSuvivor suitesの出来は遥かに良くKeith の魅力を捉えており,アルバムとしても無駄の無いまとまりになっていた.つまり,ECMのMansfred Eicherのプロデュースの質とか力を見せつけられたような一枚だったのだ.だから”Eye of the heart”への大きな期待になり,京都での売り出し初日の光景が記憶に残っている訳.それにしてもテナーサックスはいらない,ついでにドラムもいらない,という感覚は最後まで残った.聴きたかったのはKeith JarrettとCharlie Hadenのプレイだったのだ.それが30年前の話.

フォークの香をまとったアメリカ人の基底に降りていくような音(Charlie Hadenのリーダ作Closenessはその世界に近い),あるいはinter-playというより奔放で静謐,冷たく熱いようなimprovisationを想起してしまうのだ.たぶん,そのような期待のなかにあった人は多いのではないか.あの70年代はじめのAtlantic時代のトリオ(Keith Jarrett (p), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds))も,部分的にそのような香が匂い立っているのである.

Charlie Haden: Clossness (1976, Horizon) 
A1のみKeith Jarrett (p), Charlie Haden(b)

Keith Jarrett:The morning of the star(1971, Atlantic)
Keith Jarrett (p), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds)

 

とても長くなったが,Jasmin発売の報を聞いてから,そのような記憶が走っていたのである.33年ぶりの共演,という惹句の帰結でもあるのではないだろうか. 

Jasmine

Jasmine

  • アーティスト: Keith Jarrett/Charlie Haden キースジャレット/チャーリーヘイデン
  • 出版社/メーカー: Ecm
  • 発売日: 2010/05/06
  • メディア: CD
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