K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Keith Jarrett: Expectations

Keith Jarrett: Expectations (1972, Columbia)
A1. Vision 0:46
A2. Common Mama 8:10
A3. The Magician In You 6:53
A4. Roussillion 5:22
B1. Expectations 4:24
B2. Take Me Back 9:30
B3. The Circular Letter (For J.K.) 5:03
C1. Nomads 17:20
D1. Sundance 4:26
D2. Bring Back The Time When (If) 9:50
D3. There Is A Road (God's River) 5:30
Keith Jarrett(p, ss), Dewey Redman(ts), Sam Brown(g), Charlie Haden(b), Paul Motian(ds), Airto Moreira(perc), Unidentified strings, Unidentified brass
Engineer: James Green, Tim Geelan
Producer: George Avakian
Recorded NYC in Apr 5, 1972 - Apr 27, 1972

保有盤はCBS Sonyの1979年廉価盤
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今、改めて聴くと、存外に面白い。とても開放的で脳天気にすら感じさせるキース・ジャレット。何で1979年購入時にがっかりし、長く忘れていたのだろう。

それは多分、キース・ジャレットに求めているもの、多分、ボクだけではなく多くのファンが、から焦点を当てている部分が全く違った、のだろうな。だからインパルスからECM100%となる意味は、皆が聴きたいキース・ジャレットの完成、への路なんだろうな。

それは、美しくピアノを響かせ、そして、あたかも天啓のような旋律を紡ぎ出す、彼の魅力でもあり欠点でもある自己陶酔的創造への集中。だから所謂standard trioでそれは完成し、ソロ、トリオ、クラシックの3本立てで今に至っている。確かにstandard trioは望んだformであり、嬉しかった記憶がある。しかし、意識のなかでは、そこから時間が止まっている。クラシックのピアノ奏者と似たような感覚だ。ジャズ奏者としての姿が見えなくなっている。

ジャズって何だろうという、ことを声高に言いつのる積もりは全くない。多分、ジャズを弾く奏者の縦横の繋がり(音楽的、人間的)がジャズ奏者の定義であろう。そのような場での触発のようなものが聴く側でのジャズとしての面白み。だから、ほぼstandard trioでの活動に限られるこの30年以上は、ジャズという場からは孤立した存在であり、そのこと自体がジャズ的な面白さの幾分かを失っている、と思えるのだ。だから、孤高のクラシック奏者と似たような印象を受ける。それでもいいのかも知れないのだけど。

このアルバムはアトランティック時代の延長線でありながら、伝統的なトリオ、カルテットの音の聴こえ方から大きく外れていて、その後、何物かになったかもしれない萌芽のようなものを感じる。

オーネットの音楽をピアノで展開するような部分、フォーク的な草の匂いがする音の場、躍動するリズム、そのような玉手箱のようなアルバム。だけど、それは完成形ではなく荒っぽい。だから、「ピアノの美音」が中途半端な曲作りで汚されている、とも聴こえる。だから、当時のボク、そして多くの聴き手に響かなかったのではないか。

勿論、インパルスからECMでの所謂American quartetの諸作では、風呂敷を若干すぼめてフリージャズの装いを工夫した面白いアルバムになっている。

しかし、このアルバムの脳天気な開放感、は失われているようにも思われる。

そんなことを想いながら聴いていた。有り得そうで有り得なかったキース・ジャレットの消えた路のようなものを感じてしまったのだ。終焉期が到来したキース・ジャレットの幅が狭く、深い、アルバム群を念頭に。

エクスペクテイションズ

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