K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金沢・梅雨の候に濡れながらふらついてみた


ここ数日は梅雨の候を楽しむ気持ちが一杯で,濃厚な雨の甘い感触や,軽やかな風の記憶や,仄かな月や星の残照を辿るような,記憶に囲われたような不思議で蠱惑的な感触のなかにある.

梅雨の候にはいって,雨のなかであっても,晴れ間であっても,何とはなく流れる大気がひんやりすることがあって,とても気持ちが良いことが多い.だから金沢のあちこちを自転車で走ったり,歩きまわることが気持ちよくて仕方がない.ふらついていると五感を通した土地の存在感,のようなものがいつ知れず体にはいってくる.そのような,ゆっくりと浸透していくような地との交感を求めて,梅雨の候に濡れながらふらついているのだ.そんな数日を過ごす中で沈殿していくような心象を切り取ってみた.

i)涌波から辰巳用水
雨上がりの夕暮れに逃げ水を追いかけるような,とても性急な気持ちで,涌波からの急坂を自転車で駆け上がる.詰めた先にはすっかり暗くなった用水の流れがあり,速い流れだということが音から知れる.急に進むべく路をなくしたような気持ちが嫌で,ペダルを踏み込んで上流の方向に向かった.

ii)寺町台地のうえ
横になることが面倒で遅くまで起きていた夜半過ぎ,近くの神社のモリから梟の声が聴こえてくる.梟の案外正確な周期を追いかけながら漠と不安な気持ちが沸いてくる.見上げると,沸き上がる湿気の向こうで卯辰山が揺らいでいる.ぼんやりしているうちに,齢を重ね随分薄くなった月の横で木星が煌めいていた.

iii)卯辰山南の崖
雨の夜に天神橋をわたり,南の崖沿いに卯辰山を歩く.時折,強く吹き付ける雨の向こうに,か細く小立野の灯がうつる.大きく空が開いた見晴台でゆっくりと時間を過ごしたかったのだが,その時に雨脚が強まり,そこに居ることを許さないナニか・ダレか,を感じてしまったのだ.だからもっと楽しい気持ちになって歩きはじめた.

iv)鶴間坂
小立野から浅野川側へ下る坂はよくわからない.すっかり暗くなった小立野の崖の縁に沿ってゆらりと自転車をすすめる.金沢商業の裏にさしかかると,いよいよ暗くなってきて,並ぶ家々の影が落ちたような更なる暗さが気になる.眼の前に,以前は見えなかった坂が暗く口を開く.随分ながい坂を勢い良く自転車で下りていくと,薄暗い橙色の灯に照らされて流れていく影が随分と伸びていくような気持ちになった.下りたときには,すっかり空気が変わっていて,用水の流れが軽やかに音を刻んでいた.

v)宇多須神社・子来坂
卯辰山のうえに宇多須神社の奥宮があり,通りかかった時はすっかり透明な闇のなか.中に入る気持ちにもなれないので,駆け下る水音を聴きながら前につんのめりそうな坂をくだる.そのうちにすっと「うえ」から「した」に抜けたことを感じる.裏からはいった宇多須神社の社殿で手を合わせながら,なんとはない居心地の悪さを感じていると,社殿正面には茅の輪がかかり,逆向きに結界を抜けるバツの悪さが余韻に残った.また雨が降ってきた.