K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

桜に狂ふ夜(三夜め)卯辰山から21世紀美術館そして犀川へ


夜半の21世紀美術館


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その日,その夜のことは,今でもなんだかふわふわしていて,どうも現身のはなしではなくて夢うつつの曖昧な境,いや底の見えない川にかかる橋を行きつ戻りつしたような不思議な感覚.案内人になっていただいたMさんには深く感謝しております.

その日は,昼からMさんのお誘いで卯辰山中腹,西から北に開けた斜面にあるWさんのお宅にお邪魔.金沢市内を眼下に,明るいうちからビールを頂戴して良い気分になった.ぬるい風が吹き,湧く雲を眺め,ゆったりとした話を聴きながら,薄皮のように被っていた気持ちの薄衣が脱げていくのを感じた.静かに日は沈み,広間の薪ストーブに火が入り,しずかな時間を楽しく過ごした.薪ストーブで入れた温燗の福正宗がよかったなあ.酒だけでなく,燗のセットを持参して笑われたけどね.
 

 

夜半,Wさんに別れを告げて,Mさんの案内で卯辰山の急坂を駆けるように降りた.宇多須神社の境内をくぐるとき,なにか見えない縄を越えるような感覚があり,気持ちが切り替わった.ずっと,宇多須神社の奥社と本社のあいだの神域にいたんじゃないかなあ.

その後,観桜のためにライトアップされた兼六園に入った.閉門寸前.人波を掻き分けるのだけど,Mさんに導かれた一行は,ふっと人気のない静かな空間から空間を渡るような素晴らしい時間,なまあたたかい風,木々,ひかり,山を模した庭園,人が作った小宇宙のなかで意図されたブラウン運動を続けるような時間を過ごした.

 

金沢城石川門のあたりから見下ろすと,歓声・嬌声が遠くから響いているような,終わろうとしている祭りをおくる心地.悪くない.花を愛でる気持ちに違いがあるじゃなし.



ぷらぷら歩く先の21世紀美術館の光は,閉館後のほうが輝きを増すのではないか.すっかり曇天となったが,だからこそ,あのひかり,あのいろが天蓋を照らす装置となるのだ.子供はそのメカニズムだ.

 

柿木畠あたりは普段人気が薄いが,この夜だけが街に熱気があり,そこかしこと人が溢れていた.桜の周りには楽しそうな人たち.桜がかぶさった大野庄用水からは,ごうごうという流れが響いていた.

 

犀川河畔までうつり,日付が変わる頃に一行でシートを広げた.満開の桜,その盛から下りはじめる一瞬をつかまえたようだ.おりしも降り始めた雨滴を背に載せた花びらが目の前に流れ始めた.手にビール,仰げば桜,犀川の瀬で響く音を聴きながら,こんな時間がいつまでも続けばいいな,と思っていた.

この後は桜めぐり坂めぐり.犀川をはさむ寺町台地と小立野台地の坂から坂を味わった.W坂から桜橋をみおろし,二十人坂,金沢めぐみ幼稚園,ふたたび二十人坂から笠舞の臍地形,小立野の慶恩寺を抜けて金沢神社に出た頃は2時をまわっていた.断続的に降る雨が一番の役者で,たのしく浅く濡れながら時間を過ごした夜だった.