K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Jazz会#10:疎なる音の隙間から透けて見える冬のはじまりを


音を聴いているのか、音と音の間に感じる僅かな隙間を聴いているのか、時として分からない。僅かとな隙間は云え底が見えぬ深みを感じさせるときがあり、音そのものよりも惹かれるときがある。とりわけ大気が凍てつき、冷たいものがボクのまわりに沈殿する時節がやってくると、疎な音の群体を取り出し、その隙間から冬のはじまりを覗いているような感覚が将来される。底抜けの隙間。そこから透けて見えたものが果たしてヒトの気持ちを温めるのか、ますます冷やしていくのか、ボクには分からない。だけど何らかの微係数があって、その急峻な変化を針先のように気持ちを潜らしていくのだ。

もう冬が来たのか、もうすぐやって来るのか、定かではないのだけど、そんな今,音の隙間を覗いてみたくなった。殆どがジャズなのだけど、クラシック曲も少々。

1.プロローグ:非欧米音楽でスタートはいつものことで

(1) Richard Bona:Toto Bona Lokua(2004,Universal Jazz)

Lokua Kanza (vo), Richard Bona(vo,b), Gerald Toto(vo)

先月まではブラジル音楽ではじめたのだけど、今月はアフリカ・カリブ系音楽家3人の演奏。

心地良い音なのだけど、絶対温度が必ずしも高くない熱帯音楽。ただ音の隙間から吹きつける息吹は温かい。

(2) João Gilberto:João Gilberto (1973 )

ボサノバも心地良く揺れる隙間に溢れる音楽。João Gilbertoのcoolでwarmな音作りは格好がいいと、いつも思っている。最近の来日公演でも全く変っていないのは驚き。

 

2.弦楽器(ベース,ギター,バイオリン)を中心に

(1)David Friesen:The name of woman(2001, Intuition)

David Friesen(b), Randy Porter(p), Alan Jones(ds)

この人は確か西海岸の田舎(Washington州)だったかと思う。ということが、音から訥々と伝わってくる。こんな感じのジャズの一派があって、本日のメニューの一角となっている。

(2)Henri Texier: Mad Nomad (Label Bleu, 1995)

日本からみたエスニック音楽の嚆矢は東南アジアなのだけど、フランスから同じような地理感覚でみるとサハラ周辺のアフリカになるようだ。フランス人が感じるエスニック感は黒いようで黒くなく、荒ぶるようでようで荒ぶらない。

EBASTIEN TEXIER(as,cl), JULIEN LOURAU(ts,ss,as), FRANCOIS CORNELOUP(as), OEL AKCHOTE(g), BOJAN ZULFIKARPASIC(p), Henri Texier(b)

(3)Oregon: Crossing(1985, ECM)

Glen Moore(b), Ralph Towner(g,key),Paul McCandless(reeds),Collin Walcott (sitar)

こっちはオレゴン州かな。何となく静謐感がDavid Friesenと似ているでしょ。

(4)Ralph Towner: Time line (2006, ECM)

OregonのRalph Townerのソロを少々。気分で1973年のDiary(LP)をかけるかもしれないけど。

(5)Bill Frisell: Before We Were Born (1988, Electra)

Bill Frisell(g), Arto Rindsay(G), Hank Roberts(Cello), Kermit Driscoll(B), Peter Scherer(Key), Joey Baron(ds)

1980年代で最も尖っていたFrisell.このヒトもWashington州.エフェックターの効いたギターなのだけど、同じような透明感、埋め尽くされない「間」があるので好きだったのですね。なんとなく生に付き纏う不安感が溢れる音。

(6)Bill Frisell(g) & Fred Hersch (p): Songs we know(1998, Electra)

一昨年の厳寒のCambridgeでFrisellを聴いたら、すっかり丸くなっていた。その予兆の一枚。「いつか王子様」を聴いてタマゲタものだ。ピアノは注目のFred Hersch.

3.唄もちょっとだけ

(1)Chet Baker: Diana (1985, Steeple Chase)

Chet Baker(tp,vo), Paul Bley(p)

唄ったり、吹いたりのChet Bakerアムステルダムの場末のホテルの屋上から転落死する3年程前の晩年の演奏.未だに他殺か自殺かは分かっていない。若い頃の美貌は姿を消し、麻薬が蝕んだほろ苦い人生が透けて見えるような風貌になったが、音はとても優しく柔らかい。この彼の中性的な唄声がボサノバの引き金になった、そうだ。

(2)Lina Nyberg: Brasilien (2001)

Lina Nyberg(vo,g), Staffan Svensson(tp), Fredrik Ljungkvist(cl, ss, ts), Anders Jormin(b), Audun Kleive(ds)

北欧がすなるブラジル音楽。もう冷やっこくて冷やっこくて

4.ソロピアノを中心に(最近しびれているモノを少々)

(1)Fred Hersch: Fred Hersch Plays Jobim(2009, Sunny Side)

HerschはJobimの曲をそのままトレースするのではなく、新しいHerschのJobimとして再構築している。絶対温度が随分下がっていて、肌触りが冷っこい。

(2)Keith Jarrettt: The Melody At Night, With You(1999, ECM)

音を足していくのではなくて、音を間引いていくような演奏。その音と音の間の優しさが染みる。

 

4.エピローグ

(1)Heinrich Neuhaus:Scriabin, Rachmaninov, Prokofiev, Shostakovich (1946-1958, Denon)

Scriabin:24 Preludes(24の前奏曲), Op. 11よりいくつか

Prokofiev: Visions Fugitives(束の間の幻想), Op. 22よりいくつか

ボクが気に入ったクラシックを少しだけ。ゲンリヒ・ネイガウスと読むそうだ。ロシアのピアニスト。技巧で聴かせるのではなくて、音と音の間を聴いているような...3のジャズとの不連続はさほどない。