K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Paul Motian: Europe (2000) 今、改めてモチアンを

 今、改めてモチアンを聴いいている。ヴィレッジ・ヴァンガードElectric BeBop Bandを聴いた後、このアルバムを買った2000年過ぎ、聴き直した2011年頃と比べ、上手く書けないのだけど、このアルバムの「意味」のようなものが、より見えてきたような気がする。

 このアルバムでのモチアンは、まさに過去と未来のHubのような役割を、極く控えめに演じているように思える。モンク、パーカー、ハービー・ニコルスの曲を、現代的なフォーマットの上に奇妙に、美しく、portingすることに成功している。そして、過ぎ去った時代のアヴァンギャルドな空気、に新しい息吹を与えている。実に素晴らしい。

 モンクが醸し出す「奇妙な味」を継承し、21世紀にportingするためのHubとしての役割、モチアンの偉大さ、を感じてならない。そのような彼のframeworkのなかに菊地雅章も組み込まれていた訳で、今、Ruwehレコードで聴くことができる「あの音」も、その系譜から流れ出ているように聴こえる。

 1970年代のキース・ジャレット・トリオでは、ドラマーであったモチアンが一番地味であったように思う。しかし、ジャレットやヘイデンよりも、より現在ニューヨークで活躍する若手に対するcontributionを果たしたのではないか。ここに、BeBobと21世紀の音をつなぐ回廊のようなものが見えてくるのだ。

Europe

Europe

 

 

[2011-12-30記事] 過ぎし月日に淡い思いを抱いて過ごす夜に

 もう一年が終わろうとしている。暦年に何の意味があろうぞ、と強がってみても、一年の区切りというブックマークがあるが故に時間の速さを定点観測できるというものだ。

 金澤に来てからの時間のゆっくりとした流れに悦びを感じていたのだけど、それがひとときのものであることが最近よくわかった。すっかり、もとの速さ。そう時間は相対的なものだから、自分のなかの繰り返し速度にあわせて、早くも遅くもなるのだ。

 過ぎし月日に淡い思いを抱いて過ごす夜にそんなことを考えながら、今年を想い起こすと随分いろいろなヒトがこの世を去った。身の回り、昔の同僚....まったくヒトゴトではなくて、一つの選択肢として好むも好まざるも、連れて行かれる瞬間が刻々と近づいているのだ。ジャズの世界ではPaul Motianがこの世を去ったことを想い出した。

 ボクにとってもモチアンは全くもって印象が薄かった。リヴァーサイドのLPレコード、かのビル・エヴァンスヴィレッジヴァンガードでのライヴが最初かな。昔の安価なステレオ・セットでは、LPレコードのスクラッチ音とモチアンの極めて控えめなドラム音の区別がつかない。ブラッシの音が雑音のようで嫌だった,そんな出会。キース・ジャレットとのトリオやクアルテットでも印象がなかったなあ。Eye of the heartでやかましいのがひとつあったくらい。ゴメンなさい。それがボクの印象です。

 だからキース・ジャレットと分かれてからの独自の活動で、何となく気になる存在となったのは驚くことだった。フリーゼルやロバーノ との浮遊するような音、控えめな彼のドラムが点景として浮かび上がるような音空間。彼が注目されるようになったのは90年代以降ではなかろうか。

 実はPaul Motianを生で聴いたことがある。場所はマンハッタンのヴィレッジ・ヴァンガード。10年位前じゃなかろうか。記憶は定かでない。東海岸で仕事があるときはニューヨークを起点にしてジャズを聴きに行くことが多い。そのとき聴いたのがPaul MotianのElectric Bebop Band。細かなことは忘れてしまったけど、このアルバム同様、2サックス+2ギターの変則的な構成だったと思う。近年のビル・フリーゼル同様の浮遊したような音で、確か時差ぼけにはキツかった記憶がある。

 同時に、彼には気の毒なのだけど、あのヴィレッジ・ヴァンガードで、あのビル・エヴァンス・トリオのドラマーを聴いていることの感慨にふけっていたように思う。Motianが宿命的に背負っているもにじゃないかな。

 改めてこのアルバムを聴いてみると、きっちりと現代的なジャズを演じているモチアンは凄いなあと思った。そして、その彼の不断の前進が止まってしまった事実に瞑目するのみである。そうやってヒトは消えていく。

 

追記:

wikiをみると、やはり彼の活躍が50代を過ぎてからの30年余りであることがわかる。大器晩成とは、こんなヒトのことだろうな。

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Paul Motian And The E.B.B.B.: Europe (2000, Winter & Winter)
1. Oska T (Thelonious Monk) 2:11
2. Birdfeathers (Charlie Parker) 3:02
3. Blue Midnight (Paul Motian) 7:00
4. Introspection (Thelonious Monk) 5:18
5. New Moon (Steve Cardenas) 5:42
6. Fiasco (Paul Motian) 3:18
7. Gallops Gallop (Thelonious Monk) 3:53
8. If You Could See Me Now (Tadd Dameron) 6:20
9. 2300 Skidoo Herbie Nichols) 4:28
Paul Motian(ds), Chris Cheek(ts), Pietro Tonolo(ts), Steve Cardenas(g), Ben Monder(g), Anders Christensen(b)
Executive Producer: Stefan Winter
Engineer, Co-producer: Carlos Albrecht
Recorded on 2-5 July 2000 at Bauer Studios, Ludwigsburg, Germany.