K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

ジャズの黄金時代(Jazz会#27) − Miles Davis in late 50s and early 60s

 ボクは居酒屋でジャズがかかっている、のには違和感がある。なんかオシャレ音楽のような扱いで、有線放送垂れ流し。だけど、「和食にも合う」くらい音楽の完成度が高いのも事実で、BGMとして使えるレベル。殆どが1950年代後半のハード・バップ期のもの。その時代の奏者として先頭を走り、そして1990年代の初頭まで走り続けたマイルス・デイヴィス。彼の1950年代の後半から1960年代前半までの10年間に焦点を当て、彼のレギュラーバンドを聴いていくと、まさに「ジャズの黄金時代」をなぞることに。年々変わっていく彼のバンドの音を聴いて欲しい。そのなかで、不思議に「マイルスの存在感」だけは不動であり、彼の音は全く変わらないのだ。居酒屋のBGMのように聞き流さず、昔のジャズ喫茶の一場面のように、皆で聴いて欲しいと思っている。
 今回は最後のMiles in Berlinを除き、1950年代から1960年代のオリジナル・プレスあるいはオリジナルに準じたプレスでのレコードを流す。音の鮮度、が高いことを期待している。

1. 1955-56 (Age: 29-30)
数々のセッションをPrestigeに録音してきたが、このレギュラーグループ発足の頃にColumbiaと契約。Prestigeでの「契約消化録音」がingシリーズの4枚でマラソンセッションと呼ばれる。10年間のマイルスのアルバムをチョイスしたが、このグループが一番楽しいことを改めて確認した。Red Garlandの転がるようなスイング感とフィリージョージョーンズの攻めのドラムが格好いい。コルトレーンは後年の輝きがなくて、案外トロイのがご愛敬で、雰囲気に合っていることが面白い。

(1) Round About Midnight  (Oct. 1955, Columbia)
Miles Davis (tp),  John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)
有名な導入部からはじまるRound About Midnight。この曲は実に1969年までライヴで演奏され、マイルスの代表曲になっている。特徴ある導入部がギル・エヴァンスの編曲って、どこかの本で読んだような。中山本かな。


(2) Steamin' With The Miles Davis Quintet  (May/Oct 1956, Prestige)
Miles Davis (tp),  John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)


(3) Cookin' With The Miles Davis Quintet  (Oct 1956, Prestige)
Miles Davis (tp),  John Coltrane (ts), Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)
ラソンセッション4部作からふたつ。録音はBlue Noteで著名なRudy Van Gelder。Blue Note以上に彼の録音思想が出ているそうな(ボクには分からないが)。歪む寸前まで音圧を上げ、スカットした迫力あるオト。前作でのコルトレーンの生硬さ、が緩んでいるあたりが聴き所。ガーランドが良くスィングしている。

2. 1957-58 (Age: 31-32)
所謂ハードバップ期からモーダルな演奏への移行期。そのような節目にギル・エヴァンスとのアルバムが登場しているのは面白い。
(4) Miles Ahead  (May 1957, Columbia)
Johnny Carisi, Bernie Glow, Taft Jordan, Louis Mucci, Ernie Royal (tp), Miles Davis (flh), Joe Bennett, Jimmy Cleveland, Frank Rehak, Tom Mitchell (tb), Jim Buffington, Tony Miranda, Willie Ruff (French horn), Bill Barber (tuba), Edwin Caine, Sid Cooper, Romeo Penque, Danny Bank (cl, fl), Lee Konitz (as), Paul Chambers (b),  Art Taylor (ds), Gil Evans (arr)
ギルはマイルスの「軍師」のような白人のアレンジャー。1940年代末からマイルスと組んでいる。1991年にマイルスが急逝する直前に行ったのが先に逝ったギルへの追悼公演。クインシージョーンズが代役をやる豪華なものだった。1980年代まで常にマイルスの裏にいた。


(5) Milestones(Feb/March 1958)
Miles Davis (tp),  John Coltrane (ts), Cannonball Adderley (as),  Red Garland (p), Paul Chambers (b), Philly Joe Jones (ds)
このなかにレッド・ガーランドのピアノ・トリオが入っていて、それが弾けていて好み。だけど他の曲では案外生きていなくて、旬が終わったように聴こえるのは面白い。コルトレーンも変貌し、鋭い味を出しはじめている。


(6) Cannonball Adderley: Somethin' Else  (March 1958, Blue Note)
Miles Davis (tp), Cannonball Adderley (as), Hank Jones (p), Sam Jones (b), Art Blakey (ds)
これはコロンビアとの契約でキャノンボール名義。聴くと明らかにマイルスのアルバム。冒頭の枯れ葉がジャズの定番の一つだけど、ボクには響かない。


3.1959-1960 (Age: 33-34)
当時、全盛期であったハードバップから脱出し、次のステージへ。アドリブ任せにしないで編曲の妙、のようなトータルサウンドを目指しているのは明らかで、ギルとの協力関係が通奏低音のように響いている。
(7) Kind Of Blue  (March/Apr 1958, Columbia)
Miles Davis (tp),  Cannonball Adderley (as),  John Coltrane (ts),  Wynton Kelly/ Bill Evans (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)
ジャズの名盤中の名盤。ビル・エヴァンスの冷たいピアノがバップ臭を見事に消している。エヴァンスは白けた演奏と紙一重で、黒人奏者とは水と油のように聴こえる。だから水と油が混じった貴重な瞬間を捕らえたアルバム。海賊盤のでの収録の記録を聴くと、交わらないミス・テイクが入っており、奇跡的な瞬間を捕らえていることを感じる。


(8) Sketches Of Spain  (Nov. 1959/Mar. 1960, Columbia)
Bernie Glow, Taft Jordan, Louis Mucci, Ernie Royal (tp),  Miles Davis (flh,tp),  Dick Hixson, Frank Rehak (tb),  John Barrows, Jim Buffington, Earl Chapin (French horn), Jimmy McAllister (tuba) Albert Block, Eddie Caine (fl), Harold Feldman (oboe, clarinet), Danny Bank (cl),  Janet Putman (harp), Paul Chambers (b),  Jimmy Cobb (ds), Elvin Jones (perc), Gil Evans (arr)
クサくなりがちな「アルハブラ」を格調高くまとめるギルとマイルスの力はすばらしい。マイルスは楽器が下手とも言われるが、コレを聴くとボクはそう思わない。


4.1961-1962 (Age: 35-36)
ビル・エヴァンスとの共演期間は短く、早々に次のピアニスト ウィントン・ケリーに。なんとなく過渡期、のような期間に入る。
(9) Someday My Prince Will Come  (March 1961, Columbia)
Miles Davis (tp),  Hank Mobley (ts), John Coltrane(ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)
ディズニーの「いつか王子様」の名演に尽きる。この時期のメンバーは「中粒」なのだけど、コルトレーンが入ったこのトラックでの活気が素晴らしい。


(10) Miles Davis In Person, Vol. 1 - Friday Night At The Blackhawk  (Apr.1961, Columbia)
Miles Davis (tp),  Hank Mobley (ts), Wynton Kelly (p), Paul Chambers (b), Jimmy Cobb (ds)
中粒メンバーでのライヴ。ウィントン・ケリーのピアノも愛すべきスィング感に溢れていて、実に楽しいライヴになっている。リラックスしか感じはマイルスのアルバムでも随一じゃないかな。


5. 1963-1964 (Age: 37-38)
Kind of Blueの要は異質なエヴァンスだったと思うのだけど、この時代は若手のリズム・セクション(ハービー・ハンコックロン・カータートニー・ウィリアムス)を得て、モーダルな音へ突進していく。彼らが作り出すドライヴ感の凄み、に痺れてしまう。巷間で云うほどコールマンはイモだと思わなくて、マイルスの登場感を引き立てる重要な奏者だと思えるのだ。
(11) Seven Steps To Heaven  (Apr/May 1963, Columbia)
LA: Miles Davis (tp), Victor Feldman (p), Ron Carter (b), Frank Butler (ds)
NYC: Miles Davis (tp), George Coleman (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)
ハリウッドとニューヨークでの録音が収録。後者の録音では新リズム・セクションが初登場。素晴らしいドライヴ感。前者のメンバーであるヴィクター・フェルドマンは、ビル・エヴァンスのトリオで有名なスコット・ラファロとの共演アルバムで有名、なのだけど本業はハリウッドのスタジオ奏者。AORとか様々なアルバムでクレジットされている。達者なのだけど晩年のアルバムのひどさには驚いてしまった。


(12) Four' & More  (Feb. 1964, Columbia)
Miles Davis (tp), George Coleman (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)


(13) My Funny Valentine  (Feb. 1964, Columbia)
Miles Davis (tp), George Coleman (ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)
Four' & MoreとMy Funny Valentineは同じ日のコンサート。攻撃的な曲と静かな曲に分けている。マイルスのアルバムのなかでも、とても好きな録音の一つ。Kind of Blueのあと再び尖りはじめた音になっている。トニー・ウィリアムスはまだ10代。ボストンから出てきた天才少年。シンバル・ワークの繊細さに惹かれる。異論は多いと思うのだけど、ボクは60年代のマイルスの頂点をここに見る。


(14) Miles in Berlin (Sept.1964, Columbia)
Miles Davis (tp), Wayne Shorter(ts), Herbie Hancock (p), Ron Carter (b), Tony Williams (ds)
 多くの識者は60年代マイルス・バンドはウェイン・ショーターの加入により完成した、と説く。確かにコールマンより遙かに格上であることは確かで、コルトレーンアット後のトップ・テナー奏者であることには異論はない。だけど彼がマイルス・バンドに及ぼした化学変化を好意的に受け止めることが、ボクにはできない。とても「難しいオト」を使い始めて、楽しめない部分が多いのである。またリズムもより複雑な動きとなって、凄いことになっているのだけど、単純なドライヴ感が止められる感覚もある。1965年以降のスタディオ録音ではトータルサウンド指向が強く、ジャズとしての面白みに欠けている、と感じているのはボクだけではないと思う。だからマイルス自身がその反動で、1960年代末からのロック・ファンクへ接近したのだと思う。