K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

富樫雅彦,加古隆:Valencia (1980) 純度が高い失われた音

 純度が高い失われた音、富樫雅彦がこの世を去って何年だろうか。1970年頃の佐藤允彦のアルバムで聴かせたキレのいいドラム。そして透明なシンバルワーク。その彼が両足の自由を失ってから録音した数々の打楽器奏者としての録音。ブラシ・ワークの繊細さにゾクゾクしながら聴いたものだ。ただ、和的な音をベースとした内向的な曲調が多く、少々臭ってしまった。そう思って聴かなくなって、随分年月が流れた。そして、この世を去った。

 いつだったか未入手のアルバム「ヴァレンシア」が再発されると知り、本当に久しぶりに入手した。加古隆とのデュオ。フリー・フォームなのだけど、現代音楽が破壊の音楽ではないように、このアルバムも破壊でない「美しい」フリージャズに仕上がっている。そして、過度の和風の味付けもなく、純度が高い音の結晶となっている。元来LPレコードなので、CDで聴くと本当に短い時間で終わってしまう。その間の音の美しさ、正確なパルスが感応しあって紡ぎ出すスピード感が素晴らしい。山下洋輔がエリントンからモンクの流れをフリーフォームにしているのなら、加古隆ビル・エヴァンスの流れをフリー・フォームに投影しているような趣。

 久しぶりに30年以上前の日本のフリージャズを聴いたのだけど、破壊の70年代を終え、新たに再構築されたジャズの一つの成果だな、と思った。そんな陳腐な惹句を寄せ付けない美しさ、なのだ。

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富樫雅彦,加古隆:Valencia (1980,Trio)
  1. Valencia
  2. How Are You?
  3. Snowy Night
  4. Blast
  5. Spring Will Come
富樫雅彦(perc)、加古隆(p)