音楽を聴いている、と同時に、そのための手続きや、道具への愛着が積み重なっていく。
そして、その機能そのもの、の美しさに気がついた。長い間、技術者をやっていると、蓄積された人の営みの結晶たる「もの」そのものが、消えようするときに発するオウラのようなものが見えることがある。例えば蒸気機関車、なんかもそうだったよね。あるいは、ダイアルのない田舎の呼び出し電話。ボクの部屋にある音響機器にも、それを少しだけ感じた。だから、それを何とか画のようなものにしたい、と思った。
真空に引かれた管のなかには、自由電子を放射するための電極がある。その電極を熱するための電熱機構が放つ淡い光は、まさに灯と呼べるような儚さをもつ。すでに絶滅指定の技術と呼ばれ半世紀以上過ぎるが、未だ音響機器の片隅に居場所をみつけている。その危うさ、が音の魅力そのもの、なのだ。
音溝を切った円盤を回すターンテーブル、溝から音響振動を拾うピックアップもそうだ。剥きだしの盤面に降り注ぐ埃とのたたかい。朝の光の中で、微かにゆっくりと上下振動を繰り返すトーン・アームを見ていると時間がゆっくり過ぎていく。
カートリッジがうつる鏡面のようなレコード盤。音溝がつくる干渉縞のような光の反射が柔らかい
レコードの回転数を監視するストロボ。眼に見えぬ点滅。
窓の外には夏が近づいている
Ortofon SPU mono。とても大きく・重たいカートリッジ。モノラル専用。
Bill EvansのUndercurrent (UA original monoral press)を聴く。ジム・ホールのキレの良いギターを聴くために。