K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

橋本一子: Miles away (1999) 最初の数音

 結局、その奏者、アルバムがいいなあ、って思う(あるいは思い込む)のは、最初の数音を聴いたときに造られる「脳内index」に従うのだと思う。ボクの場合、「いい」、「気持ちよい」、「?」、「ダメ」くらいの語彙しかないから、過半は「?」として記憶にすら残らない。

 橋本一子は30年くらい前に「気持ちよい」のindexがついて、隣に矢野顕子がいる、って感じかな。ただ、初期のアルバムしか聴いていなくて、その意味ではピアニストとしての音の記憶は甚だ心許ない。

 数年前から、Miles awayがよい、ってH松氏から聞いたり、いよいよ中川ワニさんの本にも「異例」の量で紹介されたりしていて、いよいよ聴きたくなってきていた。しかるに、amazon中古の異常な値付け。多分、市場価格形成SWのようなものが数カ所の業者で導入していて、競い合った、結果だろうけど。狂っている。

 だからお茶の水ディスクユニオンで正常価格で入手でき、思わず嬉しかった。最近はLPレコード中心だから、CDで嬉しい、なんて久しぶりの感覚。

 でiPODに詰め込んで、出張の移動中に聴いている。思い出したのが、冒頭のこと。そう、Milestoneの数音で痺れた。これも久しぶりの感覚。Milestoneでピアノトリオ、美音とくれば、かのエヴァンスヴィレッジ・ヴァンガードなのだけど、いい意味で全く違う。すっと力が抜けた美音が漂う。ジャズよりも、一瞬、現代音楽かと思わせるような空気。ほんの一瞬のことなのだけど、その後味が前編を貫いている。ジャズの語法を纏った、ジャズ盤としてもたっぷり聴かせる、それでいて環境音楽のような音楽の芯への距離感(冷たさ)を感じさせる怜悧な音造り。

 久々にしっかり聴いた井野信義のベースの闊達なうねり, はじめてしっかり聴いた藤本敦夫のきれいなシンバル捌きもよし。家に帰ってからも暫く流しているだろうな。最後のMikes awayは声を交えた「らしい」一曲で、30年前と変わらぬ音世界で、なんとも懐かしくなってしまった。いや、熟成の度合いが増したと云おうか。

 最初に「気持ちいいindex」で矢野顕子と並べたのだけど、確かに達者なピアノとヴォイスの良さ、という点では共通。矢野顕子の強い原色の音、に対して、モノクロームの陰翳を感じさせる抑制の効いた音、とても対照的だと思う。青森と神戸という出身地の色の違いでもあると感じるのだけど、どうだろう。

 

 

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橋本一子: Miles away (1999, Polydor)
   1. Milestones
   2. On Green Dolphin Street
   3. Blue In Green
   4. E.S.P.
   5. Nem Um Talvez
   6. Someday My Prince Will Come
   7. Freedom Jazz Dance
   8. Stella By Starlight
   9. Giant Steps
 10.Nefertiti
 11.Miles Away
橋本一子(p), 井野信義(b), 藤本敦夫(ds)