K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Mal Waldron: Spanish Bitch (1970) 日本でしか発売されなかったECMのアルバム

  ある時期、日本でしか発売されなかったECMのアルバムがある、と知った。コンピレーションのような企画盤ではない。マル・ウォルドロンの好盤。

 ECMの第一作が1969年。アイヒャーのプロデュースではない、マルのFree at Last。

 その数ヶ月後で同じスタディオ、ドラムを変えているが、バンドの空気は「ほぼ」同じ。プロデュースはアイヒャー。しかし、何か、がECMレーベルとして生まれ出ることを拒み、ほぼ世に知られることのないアルバム、になってしまった。

 内容はとてもいい。ボクはFree at Lastより好きだ。マルらしいフレーズと、力強いドライヴ、そしてモンクのような垂直的な打鍵であり、音の鳴り、がよい。最初から最後まで、全く飽きずに聴くことができた。マルを最初に知ったのは、ドルフィーのfive spotなのだけど、そのときの強い印象である、あの響きでブロウする感じ、が楽しめる。(どうも、Left Aloneが苦手なので...)

 だからこそ、ECMから出なかった、のではないか。彼自身がプロデュースしているなかで、ECMをIdentifyする「何か」を考えていたであろう時期だから。ECMのIdentityは、同時期のドイツのENJAと明確に峻別されていて、まさにこのマルの録音はENJAから出るべきもので、ECMではなかった、ということだ。奏者であるマルには、全くもって関わりのない話であるが。

 だけど、ボクはこのアルバムの存在意義は十分あると思う。ENJAの場合、録音の質はコントロールされていない。良いモノも悪いモノもあって、統一感は全くない。主流派ジャズへの強烈なこだわり、のみである(それは好きなのだけど)。「ECM」でコントロールされた、このアルバムは、伝統的かつ主流派的な黒人ジャズの音が、ECM的な世界のなかで響く希有のアルバムではないか(このあとは、デジョネットのspecial editionあたりまで待たなくては)。「あの」温度感に調整されたマルの音、音と音の間の空間が美しい。ENJAはもっとwarmあるいはhotだから。

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[ECM] Mal Waldron: Spanish Bitch (1970, Globe/日本ビクター)
A1. Spanish Bitch (Mal Waldron) 13:32
A2. Eleanor Rigby (Lennon, McCartney) 6:25
B1. Black Chant (Mal Waldron) 10:27
B2. All That Funk (Mal Waldron) 10:20
Mal Waldron(p), Isla Eckinger (b), Fred Bracefu(ds)l
Engineer: Kurt Rapp
Producer: Manfred Eicher
Recorded at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, West Germany on September 18, 1970.

見開きのジャケット。厚紙なのでECMらしくない。

クレジットはECMそのもの。でもM.E.とイニシャルなのは何故?