昨夜は大手堀脇のホテルで宴席。夕刻に自宅を出て、小雨のなかを歩いた。
途中、桜が綺麗な小道を通り、兼六園を抜けていく麗しい経路。しかし、数日の風雨で染井吉野は仕舞いで、花びらが路を覆っていた。慶恩寺の枝垂れ桜も染井吉野よりも早かったから、もう葉桜だった。
慶恩寺を過ぎると、石引の裏路地はもう暗い。それでも久々に路地を歩く感触を楽しみながら歩いて行った。
夜間ライトアップの兼六園。古い庭園だけあって、新しい品種である染井吉野一色ではなく、まだまだ咲いている桜も多く、楽しめた。嵐の合間だけに、人通りは少ない。だから、なおのこと嬉しくなった。石川門の横を抜け、兼六園口の方向から出る。
宴席の時間が近づいている。大手堀のほうへ急ぐために、金沢城横の白鳥路への遊歩道を歩く。人通りが絶えた。静かで暗い。雨脚が強まってきた。金澤の三文豪(徳田秋聲、泉鏡花、室生犀星)の銅像の横を通る。妙になまめかしい感じもあって、夜更けに通るのは少し怖い感じがある。雨に濡れた銅像は、遠くの弱い燈火のなか、淡くひかり揺らいでいるような気がして、先を急いだ。
気のせいか、空気が変わった。堰を切ったように、雨脚が強まる。傘がバタバタと音をたてはじめた。もう少しなのに、と気持ちの中で舌打ちをした。兼六園でゆっくりしすぎた。短い遊歩道も最後の筈なのだけど、勢いよく流れる雨、強く吹く風で困ってしまった、大きな傘をさしているのに。見上げると、遊歩道の木々の間から瀧のように水が降りてきている。眼を疑ったのは、その風雨の中、桜の花が流れている。流れが早い用水のうえを花びらが流れている、そんな光景と似通った感じで、上から下へ強い雨の流れに乗って、次々と淡い紅色の花びらが流れていく。雨音は更に強まる。バタバタという音が轟音になっていき、とても恐ろしい心象に包まれていった。困ってしまった。
慌てて足を速めた瞬間、すっと車道に出た。目の前にT字路の信号が見えた。轟音はふっと消えていた。遊ばれたような、やられたような、そんな謎めいた感覚だけが取り残された。黒い雨傘の上には沢山の花びらが残されていた。何年かぶりの、あの感触だった。まさにshort tripの体験だった。
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あとは道中、iPADでの写真。写りはよくないが。もちろん、金沢城脇の遊歩道では写真どころではなかった。
もう花が散った後のめぐみ幼稚園
薄暗い二十人坂
慶恩寺は葉桜
石引の裏通りを進む
兼六園の入り口あたり
兼六園のなか