K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

菊地雅章: Hanamichi (2013) レコードの音、彼の音、のようでない不思議な感覚、は変わらないが

菊地雅章: Hanamichi (2013, Red Hook Records)
A1. Ramona (L. Wolfe Gilbert and Mabel Wayne) 06:40
A2. Summertime (George Gershwin and Ira Gershwin) 11:23
A3. My Favorite Things I (Oscar Hammerstein and Richard Rodgers) 5:08
B1. My Favorite Things II (Oscar Hammerstein and Richard Rodgers) 6:30
B2. Improvisation (Masabumi Kikuchi) 5:36
B3. Little Abi (Masabumi Kikuchi) 05:52
菊地雅章(p)
Engineer: Rick Kwan
Mastering: Alex Bonney
Producer: Sun Chung
Recorded December 2013 at Klavierhaus, New York
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レコードがようやく入着。それにしても凄い価格設定。アコギやな。

針をクリーニングしてから盤に落とす。なんだろう、この音に対する満足感。確かにディジタル音源のほうが鋭く、深淵なる音の底まで聴こえる感覚なんだけど。

音のダイナミックレンジの狭さが、柔らかさと感じられるだけ、のような気がする。

そうと分かっていても美味しい、この音は。酔える音だ。

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[2021-04-04] 彼の音、のようでない不思議な感覚
まずは菊地雅章の新譜が出たことがうれしい。先日のNadja21からの4枚組みGreat 3 sessionも素晴らしかった。演奏だけでなく、彼のピアノを理想的な形で収録した録音の質も。

ECMからの2枚、SunriseとBlack OrpheusはECMでの残響付加により、奏者が意図せざる音になっている感が強く、演奏の質の高さを思うと残念な気持ちが拭えない。だから、Great 3での録音の良さを強く感じたのだ。

今回のこのアルバムでは、ECMほどの過剰な残響付加はなく、そこは良かった。しかしGreat 3のようなピアノのタッチの鋭さは感じなかったのは、録音の問題なのか、本人の問題なのか、そこは判然としない。

いつもは読まないライナーノートを読んでしまった。そこには、癌の投薬により苦しみながら弾いた最晩年の菊地雅章の姿があった。しまった、読まなければ良かった。音よりも先に、その姿の印象が焼き付いた。

このアルバムは菊地雅章が幽冥の境で残した音、そのもの。だから過剰な自我との格闘のような苦悶もなく、ただただ迷いのない音が指先から零れ出ている。そしてその音は絞り込まれていて、訥々とすら感じさせる。

菊地雅章は音数が少なくなる程、打音のタイミングを測る苦悶のような声を漏らしているのだが、もはやそのような悩みもないようにも聴こえる。静寂。そこが彼の音、のようでない不思議な感覚を呼び起こす。

そう。音数の少なさ、が過剰な表現力であり求心力になっていることが菊地雅章のピアノの魅力。このアルバムでは音数の少なさ、が不自然なほど自然である。そして音は緩い遠心力により彼方へ消えていく。奏者へ戻っていくような、過去の演奏と違う景色、更なる階梯を昇ったのか、旅立つ前に迷いがなくなった、のか。

そんな取り留めのないことを考えさせる不思議なアルバムだった。

 あっ、レコード注文しなくちゃ。