K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

坂本龍一: Opus (2022) ピアノ「を」愛した男のソロ

坂本龍一: Opus (2022)

1.    Lack of Love
2.    BB
3.    Andata    
4.    Solitude    
5.    for Jóhann    
6.    Aubade 2020    
7.    Ichimei - small happiness    
8.    Mizu no Naka no Bagatelle    
9.    Bibo no Aozora    
10.    Aqua    
11.    Tong Poo    
12.    The Wuthering Heights    
13.    20220302 - sarabande    
14.    The Sheltering Sky    
15.    20180219 (w/prepared piano)    
16.    The Last Emperor    
17.    Trioon    
18.    Happy End    
19.    Merry Christmas Mr. Lawrence    
20.    Opus - ending
2022年9月 NHK509スタジオ
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昨年亡くなった坂本龍一の最後のソロ演奏集。20曲。映画が撮影されていて、そちらが主。


 そのハイレゾリューション音源が先行発売された。手がかかっているだけあって、音は良い。残響処理がやや強いが、まあ妥当か。音が粒立っていないのは、過剰な残響処理のためでなく、演奏の腕による、から。矢野顕子が「ピアノに愛された女」であるならば、坂本龍一は「ピアノを愛した男」。この差は大きい。それを噛み締めた一生だったのではないか。ドビュッシーやラヴェルへの真っすぐで素直な憧憬が痛々しい音、とも云える。

坂本龍一の演奏については、渡辺香津美のKYLYN BANDでのピコピコ音のセンスのなさで嫌になり、聴いていなかった。今世紀に入ってからのボサノヴァは、アルバムの趣味の良さが気に入って、それからは聴くようになった。小綺麗な音のパッケージ化、映画音楽もまさに、の腕が上手なのだ。最晩年のアンビエント作品は実に素晴らしく、これからの活躍を期待していたのだが。今の時代からすると早逝ともいえるだろう。

坂本龍一は1980年代前半の「ニューアカ」を引きずったような、現代の申し子のような存在でありながら現代からの受益行為を否定するような頭の悪さが、どうも気に食わなかった。ただ、その頭の悪さ自体が、現代を生きる我々の原罪そのものを表現しているものであり、その意味で憎めないものでもあった、とも思う。若い頃のセクハラ、パワハラを含む無茶ぶりが晩年の徳業でチャラになるのか、とのX上の某人の呟きは秀逸であった(これは彼を崇めるキャンセルカルチャーの主たちへの皮肉だろう)。そんな矛盾に満ちた存在が坂本龍一そのもの、であったのだと思う。

聴きどころは、Tong Poo  ではないか。あの電子音にまみれた原曲が、セピア色に乾いており、1980年代初頭を回顧するときに感じる感情を見事に表している。同じ感覚は、ライヴで聴いた渡辺香津美のinnner windと同じ。