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今になっても何か浅い眠りのなかにいるような一日だった.金曜日の午前,小さな嵐のような雨が通り過ぎた後,次第に雲が切れ,透明度がとても高い大気のなか光が溢れれていた.その晩は,訪れてきた友人達とどろどろに呑んでしまった.翌土曜の朝も鮮やかな光が部屋に差し込むなか眼が醒めた.あわててレインウエアやポケットコンロをザックに放り込み,山に向かった.
金沢に引っ越してきてから二回目の登山は医王山(いおうぜん).職場の窓からいつも見えている.黄金週があけて積雪が無くなっている(ように見える)のを見計らって,友人のKさんと向かった.医王山という山があるあるわけではなくて大きな山塊の総称で,僕たちは見上峠から白兀山(しろはげやま,880m)と奥医王山 (939m)に登り,再び見上峠に戻るルート.
溢れる光の中,とても眩しい思いで山を歩く.
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白兀山で桜が咲いていた.春が深まると金沢の街中から山里へ退いた花がとうとう山の上までたどり着いたようだった.
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光溢れる一日で草木が一斉に芽吹き,力漲る様がとても眩しかった.
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溢れる光に溶け込んだブナの林が雪の斜面に広がり,消えゆく冬の記憶のうえを夏の予感が濃く覆っていた.人が喜びや悲しみで色をなすならば,光溢れる日にブナの木がその悦びで色をなすことだってあるように思えた.
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僕が残雪期の山に登りたい理由の一つはブナの森をみたかったこと.残雪期というには雪は消えかかっていたが,みどりが眩しい森の中でしみじみと幸せを感じていた.僕がここにる,ということ.
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日が傾きはじめるなか,尾根のくだりを急いだ.ぶなの森の中で見上げるとまだ光が溢れていたのだが,お日様のひかりだけでなく木々が放つひかりもあることを感じた.
芽吹きの力がすこし翳ってきた森のなかでランプのような仄かな光となって見えた.
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夕刻まで森のなかでゆっくりと時間を過ごした.山登りの仕舞いはいつも唐突にやってくる.目の前には里の光景.田植えが終わったばかりの水田が広がっていた.
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ね,だから浅い眠りの中の夢を見てきたのだ.