[2010-10-25記を再編集]
若い頃、その美貌で絶大な人気を誇った(そうだ)Chetだけど、ご多分に漏れず麻薬渦で人生ボロボロ。50代にしてシワだらけの顔写真は往年の面影はカケラも見えない、と思っていた。そう,思っていた。
往年の写真(1950年代前半?)
1988 年春にChetの謎の死を知った。新聞の死亡欄にも小さく出た。過去の人だと思っていたからふうん、という感じ。同じ年の秋、渋谷のパルコ(だったか)で Chetのドキュメンタリー映画Let's Get Lostを観た。写真家Bruce Weberが監督なので、当時の”おしゃれ系”の扱いで渋谷。あんまり縁のない街だったし、雰囲気の違う人たちとの入場待ちも居心地が悪かった。映画をみ て驚いた。皺くちゃになったChetはナマモノのように瑞々しく(演奏を聴けばわかる)、放埒な人生の悪が皺の一本一本になったような、不良の結晶。 Bruce Weberの力量だろうな。
煉獄を目指し、荒野を歩くような殺伐とした晩年に違いない。だけど、トランペットから溢れる情感 は全盛期の頃よりむしろボクのなかに忍びこむ豊かな力を持っている。Let's Get Lostで垣間見える人間性と、音から伝わる世界のアンバランスが、Chet Bakerの魅力なのだろうな。
ボクはそんな人生のアヤに奥手だから、Chetがあの世に行って20年経ってから、やっと少しだけ気がついた次第。
Let's Get Lostより。ファッション写真家の力量が窺える。
このサンタモニカあたりのハイウエィの光景はボクのなかに焼き込まれていて、きっかり10年後にはじめてロスに行ったとき、排ガスで白けた空のもと、既視感をたっぷり感じたことを思い出した。
Let's Get Lost : 1988 (CHET BAKER)