K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Richter:6 Preludes and Fugues,OP.87(Shostakovich)

Shostakovich: 6 Preludes and Fugues for piano, OP.87 (Philips)
Sviatoslav Richter(p)
   A1.  No.14 In E Flat
   A2.No.17 In A Flat
   A3.No.15 In D Flat
   B1.No.4 In E Minor
   B2.No.12 In G Sharp Minor
   B3.No.23 In F Major
1963年パリでの録音

この数日、実に北陸らしい曖昧な雨模様が続いた。そして気温が下がり続け、夜半には10℃を割り込み、晩秋から初冬への駆け足が続いていた。昨秋に金澤に 転居してから、ボクは湿った冷たい大気が好きだ、ということに気がついていた。だから、この数日は低く暗い雲のしたを嬉々として傘をさして歩いて仕事に通った。ときとして濡れ鼠なのだけど、それも楽しい。少し変だとは思うのだけど。

昨夜は遅くまで仕事をしていたので、帰途、日付が変わる頃に家の近所のバーで軽く呑んでから帰った。小降りの雨のなか、少し暖まったカラダでますます気温が下がる大気のなかを歩くのは気持ちがいい。

今朝起きると、窓の外の竹藪越しに黄色がかった実に透明な光が射し込んできた。久々に晴れた。気温は下がり続けたようで、布団のなかで温もったカラダと対照的に冷たい足の指先がとても気になった。いつだって、冷たいところが気になってしまう。殆ど暖かいのに。

そんなことを考えながら、少しだけ聴いて気になっていたLPレコードをターンテーブルに載せた。リヒテルによるショスタコーヴィチのピアノ曲集。先月、御茶ノ水のディスクユニオンで手当たり次第買ったなかの1枚。猟盤のテーマは20世紀の音。超初心者なので、殆どは知らない作曲者,演奏者なので、要は20世紀の音だと分かれば、手当たり次第買ったピアノ曲のひとつ。さすがにリヒテルやショスタコーヴィチは知っていたけど。

鍵盤への一打目から、みるみる気持ちを持って行かれた。初冬の氷,少し指で触れば緩み溶けてしまう程度の温度感の冷ややかさの音で、今の気持ちにとても良く会う。ケレン味のある旋律はなく、ある意味淡々と流れていく。仄かに美しい調べや、微妙に気持ちの平衡感を崩すような不安な音などが、ゆったりと重なりながら鳴っている。古典的とも思える音、民族音楽のような音,とても現代的なオトが散らばっていく様がキラキラしていて、何回も何回も聴いてしまった。だから駆け足、で仕事に出かけた。ふう。不思議なことに、暑い頃に聴いたときは、悪くないなあ、程度の印象だったのだけど、今朝はいきなり入り込んできた。だから音楽を聴くことは面白い。

ボクの気持ちのどこかに小さな穴があって、穴の内側から見えたり感じたりする外の様子,例えば季節や時間や温度や湿度や風あるいは大気の流れ,それらによって穴のなかの心象風景は少しずつ変わっているに違いない。そして穴の大きさや形も心象風景とともに閉じたり開いたり。その穴にすっぱり入ってくるような音の流れ、との出会いはまさに僥倖なんじゃないかな、と仕事場へ歩きながら考えていた。40分も歩くから、そんなことばかり頭を巡っていた。最近、新しい音と気持ち良く巡り会えるのは、白山方面に登山に行くときのクルマのなか。軽い昂ぶりが、気持ちの穴を大きくするのだろうな。

ショスタコーヴィチは、やはり9月に入手したAndré Previn: The Freat Pianist of the 20th Century- vol.80でのバーンスタインとのピアノ協奏曲がとても気に入って、すこし気になりはじめていたところ。だからピアノ曲で気持ちを持っていかれるとは思わなかった。ガイドブックの類にも殆ど出ていないしね。

このアルバムはショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」から6曲を選んで録音したものだそうだ。
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ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」はwikiによると、
24の前奏曲とフーガ 作品87は、ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲した24の前奏曲とフーガからなるピアノ曲集。20世紀ソ連のピアノ音楽を代表する作品として名高い。1950年7月にショスタコーヴィチは、J.S.バッハの没後200年を記念して、ライプツィヒで開催された第1回国際バッハ・コンクールの審査員に選ばれ、ソ連代表団長として参加した。この記念祭にバッハの作品を多く聴いたことと、バッハ・コンクールに優勝したソ連のピアニスト、タチアナ・ニコラーエワの演奏に深く感銘を受けたことが、この作品を作曲する切っ掛けとなった。ショスタコーヴィチは早速、同年の10月10日に作曲に着手し、次々に前奏曲とフーガを作曲したが、当初は自身のピアノ演奏の技術を完成させるための多声的な練習曲として着想していた。しかし記念祭を通して受けた印象をもとに構想が次第に大きくなり、途中からバッハの『平均律クラヴィーア曲集』に倣って、全ての調性を網羅する大規模な連作として作曲することに決定し、翌年の1951年2月25日に全曲が完成した。なお、後に差し替えられた第16番の前奏曲を除いて、全く番号通りの順番で行われ、完成した曲は1曲完成する度に、ニコラーエワがショスタコーヴィチのために弾いたという。1951年の4月5日に、ショスタコーヴィチ自身の演奏(抜粋)で行なわれ、全曲初演はニコラーエワによって1952年12月23日と12月28日の2日間で行われた。
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なんだそうです。こうなると、バッハの『平均律クラヴィーア曲集』も聴きたくなった。困ったものだ。

ボクは超初心者なので、曲が良さが勝っているのか、演奏者の良さが勝っているのか良くわからない。という訳で早速,幾つかの演奏を早々に注文してしまった。1987年のNikolayevaによる全曲集と1951年から52年にかけてのショスタコーヴィチ自身の演奏。リヒテルについても「ロシア作曲家ピアノ作品集」なるショスタコーヴィチ、スクリャービン,プロコフィエフの曲集を頼んだ。こんな感じで月に幾つか当たればいいなあ。

(ちなみにKeith Jarrettも「24の前奏曲とフーガ」をECMから出していることも分かった。怖いモノみたさもあったけど、今回は見送り。)