K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Arturo Benedetti Michelangeli: Live in Tokyo 1973 究極的な音響の美しさ

ここ暫く、クルマのなかでは、これを聴いていた。最近はFree Music、南米音楽、ECM、そのどれをとっても「音響的な美しさ」に浸ろう、としているように思える。その感覚を究極的に満たす音は、これじゃないか、と思い立ったのだ。

特に2枚目のCDに収録されたラヴェルの曲、「高雅で感傷的なワルツ』(Valses nobles et sentimentales)」を聴くと、やはりそうだよな、と思う。

とても冷たい音なのだけど、音響自体に秘めたる韻律が強く官能的な作用を引き出す。とても細かな音の結晶が飛び交うなか、様々な心象が沸き上がる。只事ではない、のだ。

[2011-01-27記事] 美と狂のあいだ

渡米前に御茶ノ水ディスクユニオン・クラシック館で購入したもの。ミケランジェリのCDは随分集めたのだけど、気に入って何回も聴くモノは実に少ない。だけど、脳天に刃を差し込まれるような痛み、のような快楽を稀に与えてくれるので、与えられるまで探してしまう。一種の麻薬みたいな音、だと思う。電気装置からの貧弱な再生音を聴いて、彼岸が見えるような場所まで連れていかれるのだから、生で聴いたなら...あまり考えたくない。

これは30年近く前の録音なのだけど、東京FMのライヴ放送用の録音テープからおこしたもの。音のよさが惹句となっている通り、ホールのなかで響くピアノが克明に記録されている。もっぱらCD2、ラヴェルの曲集を繰り返し聴いている。一打目から美しいような、狂ったような、不安な音のあいだを気持ちを泳がされる。頭のなかの思考レイヤのなかで、上位の論理層をすっとばして、直接、感情層を触ってくるのだ。時折、さらに下層の無意識層までイヂられる感覚。その気持ちのとらえ方で好き嫌いが分かれるのだろうな。ボクは好きなのだけど。その加減をコトバに出来ないけど。

『高雅で感傷的なワルツ』(Valses nobles et sentimentales)を聴きすすみ、音の景色が変わるごとに、形の異なる不安な気分が湧き出るような美しさ、毒のあるような甘さ、に酔ってしまう。

『夜のガスパール』(Gaspard de la nuit)も体感温度がとても低く、水が冷たい。氷結するまえのヌメったような感触。冷ややかで、客観的なのだけど、静かに狂っていくまえの心性のよう。

この一週間で随分聴いたのだけど、あまり健康的なコトではなくて、心に潜む不安な感触を引き出して楽しむような、イケナイコトをしているような気もしているのだ。

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ARTURO BENEDETTI MICHELANGELI Live in Tokyo 1973
CD1
1. シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化
2. ショパン:ピアノ・ソナタ第2番
CD2
1. ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ
2. ラヴェル:夜のガスパール
録音:1973年10月29日東京文化会館 (ライヴ)