K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Fred Hersch: In Amsterdam: Live at the Bimhuis

Fred Hersch: In Amsterdam: Live at the Bimhuis (2006, Palmetto Records)
   1. A Lark
   2. The Nearness Of You
   3. Evidence
   4. At The Close Of The Day
   5. O Grande Amor
   6. The Peacocks
   7. Don't Blame Me
   8. Valentine
Fred Hersch solo piano

 この季節の金澤は三巡め。日に日に大気から温もりがなくなり、それが孕む湿気が次第に氷結点へ向かっていく加速感のなか。だけど決して氷結に達することはなく、微かな温もりが残っている。そんなことを感じながら歩く日々は楽しい。もっとも、今までの一ヶ月、これからの半月ほどは、週末には仕事であちこち出かけていた・出かける、ので、ほんとうに忙しい。音楽を聴かない日もあるのだ。

 昨日は明け方の雨も止み、折り重なる雲のなかから、淡い蒼がみえはじめた。だから久方に歩いて出かけた。そんな僅かな時間に何を聴こうかとふと思ったのだけど、先週末に横浜で手にしたFred HerschのIn Amsterdamを聴くことにした。関内とか御茶ノ水とかにでかけたら、好きな奏者の中古CDを沢山抱えて帰ってくる。これは、その中の一枚。

 一曲目のふらついたような連打音でおやおやと思っているうちに惹き込まれ、最後まで意識を掴まれたまま、全てが終わり、気がつくと静寂のなかに置き去りにされたような感覚。久しぶりに、随分深い処まで音が降りてきたように思った。近作のように、沈黙よりも静かな音世界をつくっている訳ではない。ライヴだからといって、微かにでも熱狂がある訳でもない。近作よりも少しばかり暖かい、微かに人の気配を流してくるような温度感。そして、その目線はヒトの高さにあって、高く上がろうとしている訳ではなく、また深く沈殿していこうとしている訳でない。そう眼の前のピアノから出た音が真っ直ぐに自分のまわりを流れていくような感じ。

 時々刻々、蒼から藍そして灰から黒へと遷移する金澤の空。そんな移ろいのなかで移ろうピアノの色彩。ひとつひとつの音の印象が強く残るのではなくて、水面に流した墨の粒子が拡散していく流紋をみているような。多彩なモノトーン。

 Peacockを聴くと、Bill Evansの最晩年のアルバムYou must believe in spring(1977)を想い出す人は多かろう。ボクもそう。Fred Herschがつくる音世界は勿論Bill Evansの音世界にとても近い。だけど、Bill Evansの音が孕む微毒の要素は薄い。もう一つの世界の甘さを唄うような微毒。Herschの音はこの世の音であり、とても生に対する肯定的な匂いに満ちている。最近になって驚くほど気に入ったBrad Meldauよりも暖かく、もう30年以上聴いているKeith Jarretteと比べると飛翔するような(ときにイカロスのように失墜するのだけど)音はなく、あくまでヒトの世界だと思うのだ。

 だから少しばかり疲れている年の瀬に聴いていると、もう少し頑張ってみようかなって、殊勝に思ってみたりするのだ(実は帰宅途中もこのアルバムを聴いていて、意識がトンでしまって、道を間違えてしまった。少しだけ遠回り)。

ジョビンの曲も抽象化された感じなのだけど、原曲の美しさをカケラにして散りばめた感じ