このあいだのこと。ひょんなことから、近所のSさん宅に誘われた。膨大なLPレコードのコレクター。一献ありなので、持っていくオカズを作っていた。台所から見える夕景が次第に紅色に染まっていく。奇妙な感じがした。ボクの部屋は南向き。白山が見えるような部屋を選んだから。西のほうは見えない。
窓から外を覗き見ると、西の方角(西南西)は日没で暗くなっている。東の方角(東南東)に高く浮かぶ雲が紅に染まっている。大気圏での長い光の軌跡がフィルタのような役割を果たし、その先っぽにある雲を局所的に照らしているのか。そのうちに周りは暗くなっていき、赫い残照のなか、驚いた気持ちでただ東の方角を眺めていた。またとない不思議な夕暮れ。時間の目盛りが随分と幅広になっていて、僅か5分くらいのことだったのだけど、長い時間、ボクも赫く染まっていたように思えた。その赫い大気のなかで、月が小さく漂っていた。
雪見橋近所のS夫妻宅では、70年代から80年代のLPレコードを沢山聴いた。音がいいし、なにより選曲が良かった。すっかりLPレコード熱が再点灯してしまった。手土産で持っていったカナダのワインを自分で沢山呑んで(あれまあ)、ご機嫌で千鳥足。(Sさん:ありがとうございました)
その帰途、見上げた月は蒸せた北陸の大気の中で大きく揺らいでいた。輪郭はぼやけ、膨らんでいる。どのような加減か充血したような赫い月。河岸段丘の縁を歩いたのだけど、犀川から吹き上げる風にあたりながら、夜半過ぎの不思議な光景、野田山の上の赫い月を呆れて見上げていた。