K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Chet Baker:Let's Get Lost(1989)Bruce Weber監督のフィルム:死者の時間・生者の時間

最近は忙しくてブログを書く時間があまりない。何かと切羽詰っているのだ。ときどき失敗もあり、なんだか以前の集中力を前提とした物事の進め方に無理があるように感じてきた。この地、金澤に引越してきたときに、その時間のたおやかな進み方に驚き、そして自分のなかの時間との差分があからさまで、その差分に驚かされたものだ。

住んで1年半が過ぎたのだけど、この自分の時間・自分をとりまく時間という感覚が消えていることに気がついた。順化しているようだ。だから、かつての「自分の時間」感覚でものごとを進めると、かなり痛い。困ったことだ。

そんな日々なのだけど、往々にして「死者の時間」で光陰の速さを測っているような感覚がある。マイルスが亡くなって今年で20年めだとか、ビル・エヴァンスがまだ「生きていた頃」だとか。LPレコードだとかCDが死者との思い出の缶詰のように感じることがある。死者に仮託した自分の感情を何十年ぶりかに取り出すだけなのだけど。LPレコードのジャケットの手触りや匂いをきっかけにしてね。

そのころ、ボクがジャズを聴きはじめてから10年くらいの頃、チェット・ベイカーがこの世を去った。アムステルダムのビルの屋上から転落死。自死とも殺人とも事故死とも定かでない。晩年までレコーディングが活発だったとはいえ、すでに過去の人であった、と思う。新聞の小さな記事が伝えた死、そして何事もボクのなかでは起こらなかった。それから20年が過ぎ、その存在感が大きくなっているのは何故だろうか。今や、大好きだったマイルス・デイヴィスよりも沢山聴いている。

若い頃はディーンばりの容姿でまさに西海岸のcoolなジャズ・スターだった。麻薬禍にまみれるも、”死に損なった伝説”のような男になって生き続けた。その最後の頃をとらえたブルース・ウェバーのフィルムがLet's Get Lost。転落死から程なく、渋谷パルコで上映された。白黒の画面の向こうに老いてなお不良であったチェットの姿が残っていた。美しい白黒フィルムの陰翳にチェットの光と影が焼き付けられていた。そしてボクは、上映直後に入手したレーザーディスクから映像をダビングして、未だに時々ながめているのだ。

ゆっくりみたいヒトはボクの安借家に来てもらってもいいですよ。もうバーボンは呑まないので、アイラ・スコッチになるけどね。